NFL選手が脳しんとうとともに恐れる故障の一つが膝の靭帯損傷だ。なかでも、大腿骨と脛を結んで膝を安定させる前十字靭帯、いわゆるACLの断裂はその瞬間に選手のシーズン終了を決定づけてしまうほどの重傷だ。


 昨今の医学の進歩により、アスリートがACL断裂から復帰するまでの期間は、早ければ9カ月と大幅に短縮された。それでも、激しいコンタクトにさらされるアメリカンフットボールではそこまでの短期間での復調は難しい。
 そして、復帰したあとでも負傷前のパフォーマンスが戻る保証はない。


 49ersのLBナボロ・ボウマンもそれを実感する一人だ。
 オールプロの常連から1年に及ぶリハビリ生活。これが競争と入れ替わりの激しいNFLにおいてどれだけシビアな環境であることか。


 シーズン全休ともなればファンの記憶から選手の存在は薄れ、あらたなタレントの台頭に立場を脅かされる。戦術が目まぐるしく変わるNFLでは頭脳が追い付いていかない場合もある。
 ヘッドコーチ(HC)やコーディネーター交替によってチームの方針やメンバーががらりと変わっていることだってあるのだ。バウマンがまさにそうだった。


 ボウマンは2010年にドラフト3巡指名を受けて49ersに入団した。長期の低迷にあえいでいたチームが、ドラフトで指名する若い人材によって再建を図っていた時期である。
 すでに49ersにはパトリック・ウィリスがスターの位置を確立しており、ボウマンはその控えとしてルーキーシーズンを送る。


 彼にとってのチャンスは早くも2年目に訪れた。ジム・ハーボウがHCに就任すると同時に先発ILBに抜擢され、ウィリスとコンビを形成する。
 この頃すでに49ersディフェンスにはLBアーマド・ブルックス、DEジャスティン・スミス、SSダンテ・ウィットナー、FSダショーン・ゴールドソン、CBカルロス・ロジャースといった選手がきら星のごとくそろっていた。


 そのディフェンスとハーボウの指導力で49ersはプレーオフの舞台に復帰、翌年には1994年シーズン以来となるスーパーボウル出場を果した。


 オールプロやプロボウル級の選手がそろうディフェンスの中で、ボウマンはその存在感を強烈に放っていた。
 激しい当たりと広い守備範囲。タックル数は常にチーム上位で、11年から3年連続でオールプロに選出された。
 余談だが、13年限りで閉鎖された本拠地キャンドルスティックパークでの最後のTDを記録した選手はボウマンである。ファルコンズのQBマット・ライアンのパスをインターセプトし、そのままエンドゾーンに飛び込んだ。こうしたプレーを生んでしまうところにも彼のスター性がうかがえる。


 そんな順風満帆だったボウマンのNFLキャリアに影が忍び寄った。2年連続のスーパーボウル出場を目指した13年シーズン、49ersは前評判通りに順当に勝ち進み、NFC決勝に駒を進めた。
 対戦相手は地区ライバルのシーホークス。第3クオーター終了時までリードしていたナイナーズだったが、最終クオーターに10失点し、敗れた。そして、この試合でボウマンは左膝のACLとMCL(内側側副靭帯)を断裂してしまう。


 LBの場合、膝の靱帯断裂からの復帰には1年から1年半の期間が必要だとされる。すなわち、この時点でボウマンは翌14年シーズンのプレーが絶望的となったのだ。


 ボウマンが手術と入院、リハビリに務めていた頃、49ersも苦しい時期を迎える。チームは8勝8敗に後退するだけでなく、ハーボウHCとチームの軋轢が表面化。チームは事実上の崩壊状態となる。
 シーズン終了とともに、ハーボウHCは母校ミシガン大学のHCに就任。後釜にはDLコーチだったジム・トムスーラが座った。


 人材の流出は続いた。ウィリス、ジャスティン・スミスの引退、LBアルドン・スミスの解雇に続き、オフェンスでもRBフランク・ゴア、OGマイク・ユーポティら主力が移籍した。ボウマンが満を持して戦列復帰したのはそんな時期だった。


 ディフェンスの基本システムこそ変わらなかったものの、先発の顔触れは2年前とは半数以上が入れ替わり、その分だけレベルも下がっていた。オフェンスの不振も手伝って、ディフェンスはフィールドにいる時間が長くなり、シーズンが深まるにつれて疲弊していった。


 長期のリハビリを経たにもかかわらず、やはりボウマンのコンディションは故障前と同じ状態には戻らなかった。
 左膝の痛みは消えず、練習できる状態にもっていくまでに数時間のマッサージとウォームアップが必要な日もあったという。持ち前のハードヒットを生むために膝の力は不可欠で、そうしたプレースタイルも故障個所に負担を与えていく。


 しかし、そうした苦境の中で、ボウマンはリーグ最多の154タックルを記録して復活をアピールした。故障明けでありながら全16試合に先発出場し、一流選手の証であるオールプロの座も奪回した。
 残念なことに49ersが5勝11敗と低迷し、同地区ライバルのカージナルスが躍進したこともあって、NFL全体におけるボウマンの活躍はさほど目立たなかったかもしれない。それでも、2本の靱帯断裂からトップクラスのパフォーマンスへの復活は特筆に値する。


 今季からナイナーズはチップ・ケリーを新HCに迎えてオフェンスの改善を目指す。ハーボウ時代のディフェンス主導とは異なるが、攻守でバランスの取れたチームが出来上がれば、NFC西地区で存在感を示すことは可能だ。そのディフェンスの中心には逆境を克服したボウマンがいる。

【写真】2015年のシーホークス戦でタックルする49ersのLBボウマン(53)(AP=共同)