小学校6年生になる息子がアメリカンフットボールに興味を持ち始めた。きっかけは筆者の部屋に全巻そろっている「アイシールド21」だ。少年雑誌で2002年から7年間連載された漫画で、アニメ化もされた。


 NFLの選手ではアーロン・ロジャース(パッカーズQB)などの名前も覚えており、「最近はバーガー(スティーラーズQBベン・ロスリスバーガーのこと)の調子はどう?」などという会話が父子のコミュニケーションになっている。


 アメフットを好きになるきっかけは何であってもいい。人気少年雑誌での連載は格好の材料だ。事実、「アイシールド21」の影響で高校生を中心にアメフットの競技人口が増えたという。
 筆者の場合、高校生の時に何気なく見たテレビ中継がきっかけだった。試験勉強に飽きてつけたテレビの画面に映し出されたのは、かつて行われていたジャパンボウルだった。


 ジャパンボウルとはアメリカのメジャーカレッジの東西対抗オールスター戦だ。シーズン後の1月に行われ、選手にしてみれば日本に旅行できる特典があり、日本のファンは本場の選手を見ることができる貴重な機会だった。
 トニー・ドーセットやアービン・フライヤーといった、後にNFLで活躍する選手も多く来日した。


 筆者は当時、ルールも分からずに見ていたのだが、ひとたびボールを持てば、襲い掛かるディフェンダーを次々とかわして走るひとりの選手から目が離せなくなった。
 スピードがあり、パワーもある。何よりも走る姿がカッコ良かった。とにかくその選手が見たいという一心でテレビにくぎ付けになった。


 そのポジションがランニングバックと呼ばれ、選手がボー・ジャクソンという稀代のアスリートだということは後で知った。
 このジャクソンに憧れて筆者はアメフットにのめり込んでいった。大学での部活で迷わずアメフットを選んだのもこれが理由だ。まさか、その後自分がアメフットに関わる仕事をするとは夢にも思わなかったが。


 俳優の高嶋政宏さんはお父様の忠夫氏の影響でNFLが好きになったという。また、キム兄こと木村祐一さんは芸人の後輩の勧めでスーパーボウルを見るようになったとか。
 それぞれのきっかけを聞くたびに思うことがある。それは、はじめはルールなど知らなくてもいいということだ。


 アメフットをよく知らない人は決まって「ルールが難しくてね」と言う。しかし、最初は誰もルールを知らずにアメフットに触れ、もっと知りたくなったからルールを勉強したのだ。これはどのスポーツでも同じだろう。
 この点にアメフットの普及の鍵があると思う。「ルールが難しい」という先入観の壁を破って、まずこのスポーツに触れてもらうことが優先されるべきだ。


 昨年のイングランドでのワールドカップ以来、ラグビーが空前絶後の人気を誇っている。その背景には日本代表が初戦で強豪の南アフリカを倒したという快挙があることは間違いない。
 この勝利でラグビーの「ラ」の字も知らなかった人が関心を寄せ、イケメンラガーの五郎丸歩選手の存在もあって一気にブームに火がついた。


 これと同じ現象がアメフットで起こっても不思議ではない。要するにきっかけなのである。そのきっかけがどのようにして訪れるか。そして、そのきっかけが訪れるような環境が整っているかが重要なのだ。


 ラグビーではそれが整っていた。トップリーグという全国展開する組織が存在し、秩父宮や花園といった「聖地」も用意されている。
 そして、タイミングよく今年から日本も世界最高峰と言われるスーパーラグビーに参戦しているため、ファンの関心は引き続きラグビーに寄せられている。ワールドカップでの快挙から火がついた人気が一過性のものに終わらない土壌がラグビーにはあった。


 実は筆者は日本でのアメフット、NFL普及に大きな危機を感じている。地上波のテレビ中継はもちろん、BSやCSでの放映も減少している。
 数年前まではCSで視聴可能だったNCAAの試合も見られなくなった。つまり、「ルールを知らなくてもいいからまず触れてほしい」という環境そのものがないのだ。


 かつてはNFLヨーロッパというNFLの下部組織が存在し、アメリカ合衆国以外の選手がプロリーグを経験する機会が与えられていた。Xリーグからも毎年選手が派遣され、日本の競技レベル向上に大きく寄与した。


 冒頭でジャパンボウルを紹介したが、1990年代前半までは、ジャパンボウルのほかアメリカンボウル(NFLプレシーズンゲーム)、ミラージュ(のちにコカコーラ)ボウル(NCAA公式戦)、アイビーボウル(アイビーリーグと日本の大学の交流戦)など、本場アメリカの選手を招いて行うボウルゲームが複数存在した。
 これらは少なからずメディアで取り上げられ、アメフットの知名度アップに貢献していた。それが現在では皆無である。日本では本場のフットボールのすごさに触れる機会がない。


 NFLはこのほど、2018年を目標に中国でレギュラーシーズンを開催する計画を発表した。実現すればアジアでの公式戦開催は初めてだ。
 これは日本にとって由々しき事態だ。日本では何度もアメリカンボウルが行われ、競技レベルでは世界選手権で実績を残している。世界ランキングは現在2位だ。それなのに、NFLは市場拡大のターゲットとして日本ではなく、中国を選んだのだ。アメリカンボウル開催や世界選手権本戦出場の実績がないにもかかわらずだ。
 日本のアメフット関係者はこの事実を直視しなければいけない。


 日本でアメフットがブームとなるには、日本人のNFL選手が誕生することが一番の近道だと言われて久しい。現在、本場NCAAのメジャーカレッジでプレーしている日本人もいて、彼らが初の日本人NFL選手となる可能性はある。
 しかし、誤解を恐れずに言えばこれは、たまたまアメリカで生活している日本人がアメフットの道に進んだにすぎない。日本のフットボールリーグがアメリカでも通用することを目的として育成した選手ではないのだ。自然発生的に日本人NFL選手が誕生することを、指をくわえて待っているのが実情だ。ここに大きな問題がある。


 オリンピックは言わずもがな、前述のラグビーやサッカーにおいては世界レベルに太刀打ちできる選手を育成するプログラムが用意されている。
 アメフット人気が日本人NFL選手の誕生に頼るのが現状なのであれば、その育成に力を注ぐ必要があるのではないか。


 東北の震災前までJリーグが福島県で展開していたJビレッジのようなものは難しいにしても、将来有望なアメフット選手を公費でアメリカ留学させるなどの方策は決して実現不可能ではない。
 育成には時間がかかる。予算や選手の教育環境などクリアしなければならない問題も多い。しかし、いつか着手しなければ「将来」はいつまでたっても「現在」にはならない。


 一介の新聞記者の提言としてはあまりに大きすぎるテーマであるが、アメフットの普及のために今何すべきか、考える時が来ていると思う。

【写真】1976年1月に開催された「第1回ジャパンボウル」。旧国立競技場のスタンドには6万8000人の観衆が詰めかけた