おそらく物心ついたころには、周りから「サラブレッド」と呼ばれていたことだろう。それはコルツの若きエースQBアンドルー・ラックが父と同じポジションを志した時からの宿命だった。


 父オリバーはNFLのヒューストン・オイラーズで活躍し、引退後はNFLヨーロッパの会長や母校ウェストバージニア大学の体育学部長などを歴任したアメフット界のエリートだ。
 その息子というだけで世間は勝手に期待を膨らませる。2世選手が例外なく背負う周囲の期待。それが重荷となって消えていく選手も少なくない。


 思えば、常に宿命と期待を負わされるフットボール人生である。アマチュア時代のラックは父と比較された。ヒューストンにあるストラトフォード高校在校時代は言うまでもない。父の印象が深く残るこの都市では、彼はまず「あのオリバーの息子」と認識された。


 期待にたがわず先発QBとなったラックは親の七光りを必要としない活躍を見せた。全米で注目を浴びた高校生だけが出場できるオールスター戦にも招かれた。
 スカラーシップを受けて進学したスタンフォード大学では、レッドシャーツ(練習生)を経たあとの2009年(学年は1年生扱い)に先発QBの座を獲得する。2年生時の翌年にチームを12勝1敗の成績に導き、その実力は広く全米で知られるようになった。


 ラックを同大学にリクルートしたジム・ハーボウHCがこのシーズンを最後に退任し、49ersのHCに就任した。
 NFLドラフト入りの資格を得ていたラックも、これをきっかけにプロ入り宣言をするかと思われたが、残留を決意。スタンフォード大のファンを喜ばせた。
 ところが、この決断が皮肉にも新たな宿命を彼に課すことになる。


 ラックがスタンフォードで最後の1年を過ごした2011年、NFLに激震が走る。トム・ブレイディと並びリーグを代表するパサーであるペイトン・マニングが首の故障でシーズンを全休。毎年のようにスーパーボウル優勝候補の筆頭だったコルツは2勝14敗と低迷し、2012年のドラフトの全体1位指名権を獲得したのだった。


 このドラフトを前にコルツはフランチャイズQBであるマニングと袂を分かつ。首の故障が重大とみて、マニングに見切りをつけたのだ。そして、トップ指名権を行使してラックを獲得したのである。
 この瞬間、ラックはマニングの後継者としての宿命を負わされたのだ。


 前評判は真っ二つに分かれた。オリバーの血をひくサラブレッドに期待するものもあれば、偉大なマニングの跡継ぎは誰にも不可能との悲観的意見も多かった。


 開幕から先発を任されたラックはチームに11勝5敗の好成績をもたらし、1年目にしてプレーオフ出場を果たした。
 初戦のワイルドカードラウンドで敗退したものの、ベテラン選手を多く放出して世代交代を図ったコルツにとっては予想外に早いポストシーズン復帰だった。


 その後もラックとコルツは順調に成長する。2年目の2012年シーズンに、コルツは3年ぶりにAFC南地区で優勝し、プレーオフでもラック時代では初となる勝利を挙げる。
 マニングのプレーオフ初勝利は5年目のシーズンだったから、3年も上回るペースだ。そして昨年は地区連覇の後、AFC決勝にまで駒を進めた。これもマニングより2年早い。


 ラックならずとも将来の殿堂入りが確実なマニングの跡を継ぐなど至難の業だ。それでもプロデビュー以来48試合に先発出場、3年連続でコルツを11勝5敗の成績に導いてきた。
 必ずしもオフェンスに人材がそろっていない中でWRレジー・ウェインとホットラインを形成し、2年目にはT・Yヒルトンとのコンビネーションを確立した。


 決して強くないパスプロテクションとランオフェンスのあおりを受けて幾度もサックを浴びた。こうした中でも順調に実力を育んできた。
 一歩ずつ着実に先に進むラックがまだ見ぬ世界はスーパーボウルのみ。マニングが9年目にして初めて手にした栄光だ。


 今年のコルツはこの悲願達成のために大幅な補強をした。ウェインとの再契約を見送り、FAでWRアンドレ・ジョンソン、RBフランク・ゴアを獲得。OLもポジションを入れ替えるなどして強化を図っている。今年こそ、の機運は高まる。


 ラック率いる新生コルツがプレーオフの常連になる一方で、越えられない壁があるのも事実だ。ペイトリオッツである。過去4戦して全敗。特に最近2年のプレーオフはともにペイトリオッツに敗れて敗退している。
 ペイトリオッツが減圧されたボールを使用したとされる昨季のAFC決勝も、規定通りのボールが採用された後半だけでも0―28と大きく負け越した。この壁を越えない限り、スーパーボウルは見えてこない。打倒ペイトリオッツは今季のラックとコルツの最大の目標だ。


 これまでのラックは期待通りの成長と活躍を見せてきた。しかし、ミッションはまだ完了していない。なぜなら、マニングが過去に達成したスーパーボウル優勝をまだ達成していないからだ。これこそが、ラックが新たに背負う宿命にほかならない。

【写真】初のスーパーボウル制覇に燃えるコルツのエースQBラック(AP=共同)