フットボールを指導する立場の者なら誰もが憧れるのがNFLのヘッドコーチ(HC)だろう。フットボールの最高峰のリーグでチームを指揮し、スーパーボウル優勝に導く。1年に一人しか味わうことのできない栄誉だ。


 言うまでもなく、世界に32しかないヘッドコーチの座を手に入れるのは至難の業だ。日本のプロ野球では、有名選手が引退して数年後に監督に就任する例が多いが、NFLではこれはありえない。
 NFLにおけるコーチ業は通常、クオリティーコントロールと呼ばれるアシスタントから始める。クオリティーコントロールというのは見習いのようなもので、スカウティングに使うフィルムの編集や整理などを主に行う。


 ここで経験を積んだあとにポジションコーチとなり、さらにコーディネーターを経てHCへと進むのが一般的な出世コースだ。
 もっとも、ポジションコーチからHCに抜擢される例も珍しくない。かつてレッドスキンズで2008年から2シーズンHCを務めたジム・ゾーンは、QBコーチとしての実績が買われた。それまではNFLではコーディネーターを経験していなかったが、QB育成の手腕が高く評価された。


 HCを務めた人物が他チームでコーディネーターやポジションコーチに就任することも多い。降格人事のようだが、フットボールでは必ずしもそうではない。
 例えば、今年からブロンコスのHCに就任したゲイリー・キュービアックはブロンコスの攻撃コーディネーターを経て2006年にテキサンズのHCとなった。13年途中に解任され、昨季はレーベンズの攻撃コーディネーターに就任していた。


 キュービアックもそうだが、コーディネーター時代の実績が評価されてHCに招聘されるケースが多い。ところが、コーディネーターとしては優秀だが、HCでは結果を残せない人が少なくない。
 その代表例がブロンコスの新守備コーディネーター、ウェイド・フィリップスだ。フィリップスは父バムの下でディフェンスを学び、セインツ、ブロンコス、ビルズ、チャージャーズ、テキサンズで強力なディフェンスを作り上げてきた。彼の指導するディフェンスは常にリーグトップ10にランクされる。


 ところが、HCとしての成績は芳しくない。通算成績こそ82勝61敗と勝ち越しているが、プレーオフでは1勝5敗。09年シーズンにカウボーイズのHCとして5度目の挑戦でようやくプレーオフ初勝利を得た。
 しかし、その翌年には1勝7敗と不振を極め、シーズン途中で解雇された。このシーズンのスーパーボウルは地元カウボーイズ・スタジアム(現AT&Tスタジアム)で開催される予定だっただけに、史上初の地元チームのスーパーボウル出場という期待を裏切られたカウボーイズファンの落胆は大きかった。


 解任後はキュービアックの下でテキサンズの守備コーディネーターに就任し、DEのJ・J・ワットを開花させるなどの実績を残した。今回のブロンコス復帰もキュービアックとの縁が理由だ。
 そのカウボーイズでかつて攻撃コーディネーターを務め、1992~93年シーズンのスーパーボウル連覇に貢献したノーブ・ターナー(現バイキングズ攻撃コーディネーター)もHCとしては結果を残せていない。


 これまで、レッドスキンズ、レイダーズ、チャージャーズのHCを歴任した。QBフィリップ・リバース、RBラディニアン・トムリンソンといったタレントに恵まれたチャージャーズでは、有力な優勝候補に挙げられたが、07~09年に3年連続でプレーオフに出場するもスーパーボウルには届かなかった。
 チャージャーズ時代の成績は56勝40敗と大きく勝ち越しているが、通算成績は114勝122敗と負け越している。


 コーディネーターは専門の分野に没頭できるが、HCはチーム全体に気を配り、運営していく義務がある。これに順応できないと、いかに優勝な作戦参謀であろうと指揮官には向かないのだろう。
 フィリップスもターナーもまだHC職には意欲を示しており、チャンスがあればどこかのチームで指揮を執りたいと願っている。
 だが、彼らにはコーディネーターとしてその才能をフルに発揮してほしいというのが筆者の願いだ。

【写真】今季ブロンコスに戻ってきたウェイド・フィリップス守備コーディネーター(AP=共同)