スーパーボウルで優勝したペイトリオッツが、AFC決勝でボールの空気圧を規定より低くして使用していたとされる、いわゆる「デフレートゲート」は日本でもニュースで報じられるほどの大きなスキャンダルとなった。
 NFLはペイトリオッツとQBトム・ブレイディに対して処分を発表。開幕から4試合の出場停止処分を言い渡されたブレイディはすぐに異議申し立てを行った。NFLはロジャー・グッデル・コミッショナーが直々にブレイディへのヒアリングを行う予定だ。


 グッデル・コミッショナーは処分を決定したNFL側の当事者であることから、NFL選手会はヒアリングが公平に行われない可能性を危惧している。しかし、これは現行の労使協約で認められていることなので変更はされない見通しだ。


 グッデル・コミッショナーは2006年の就任以降、規律遵守を強調する姿勢を貫いている。選手を含むNFL関係者の行動規範を重視し、違反があれば厳しい処罰を科してきた。
 昨年も婚約者(現夫人)を殴って失神させたレイ・ライス、息子への打擲が明らかとなったエイドリアン・ピーターソン、ドメスティックバイオレンスで逮捕されたグレッグ・ハーディに対し、長期の出場停止処分を決定した。


 ブレイディは、試合球が規定以下の空気圧に調整されていることを少なくとも知っていたということで処罰を受けている。この場合は行動規範ではなく、試合の競技規定に反する行為だ。
 過去に前例がないことから4試合の出場停止処分が妥当かどうかの判断は難しい。しかし、処罰発表でNFLは「試合の尊厳を損なう」重大な違反行為であると断じている。NFLはその権威を失墜させないためにも簡単に処分軽減には傾かないだろう。


 今回の問題はアメフットの花形ポジションであるQBに「クロ」の裁定が下ったところにある。しかもそれが過去に4度もスーパーボウルを制し、NFLを代表する英雄的存在のブレイディであった。
 QBは数多いアメフット映画でも主役となることが多く、子どもたちが最も憧れるポジションだ。自然と清廉潔白なイメージが付きまとう。


 実際にNFLでもペイトン・マニング(ブロンコス)やアーロン・ロジャース(パッカーズ)、アンドルー・ラック(コルツ)といったQBはそのイメージに近い。
 相手にダメージを与えるプレーに報奨金を設定していたことが問題になったセインツでも、ドルー・ブリーズはスキャンダルとは完全に無関係で、その潔白なイメージは保たれた。


 ところが、デフレートゲートではまさにそのQBの関与が疑われている。この事件の報告書「ウェルズリポート」では、ブレイディが減圧球の使用を少なくとも知っていたと控えめな表現になっているが、実際にボールの空気を抜いたとされる球団関係者から提出された携帯電話の通信記録には、ブレイディからの依頼で空気を抜いていたこと、そして、それが長期にわたって行われてきたことを疑わせるやり取りがある。


 ブレイディが自分の通信記録を証拠として提出することを拒んだため、関与を確信する根拠はないが、潔白を証明することにもならない。むしろ、疑惑が深まったのである。
 ブレイディは今後、出場停止処分の取り消しもしくは軽減を求めていく。しかし、自らの関与を完全に否定する証拠がない限り、これは難しいかもしれない。グッデル・コミッショナーはリーグの決定を支持する立場にあり、容易には態度を軟化させないと予想されるからだ。


 ブレイディが対抗策として第三者の仲裁機関に申し立てすることも考えられる。ブレイディ対NFLという望ましくない戦いだ。
 ただ、この場合は報告書の内容が状況証拠の域を出ないことからブレイディ有利の判定が出る可能性もある。


 しかし、以前にも書いたようにこのスキャンダルの本当の問題はそこではない。デフレートゲートの発覚により、ペイトリオッツとブレイディのイメージが損なわれたことだ。そして、それはペイトリオッツが10年ぶりに勝ち取った昨季のリーグ優勝にも傷がつくことになる。


 現状ではスーパーボウル優勝の剥奪という処分には至らないと思われる。シーホークスとの激闘と劇的な幕切れは長く語り継がれる名勝負だった。この試合そのものは不正があったわけではない。
 だが、そこに至る過程で不正行為が試合結果に影響していたとしたら、その栄誉が損なわることは否めない。だから、ファンは怒りを感じるのだ。


 NFLは今、ブレイディの処分についての話題で持ちきりだ。ヒアリング後の裁定にもNFLは慎重な姿勢が必要だ。
 しかし、最も大切なのは、このような事態が二度と起こらないように対策を講じることだ。そうでなければファンのペイトリオッツやブレイディへの不信感が、今度はNFLに向けられないとも限らないのである。

【写真】昨季のスーパーボウルでMVPを受賞したブレイディ(左)にトロフィーを手渡すNFLのグッデル・コミッショナー(AP=共同)