今年1月に行われたAFC決勝で、ペイトリオッツが空気圧を規定より低くしたボールを使用していたとされる問題に大きな進展があった。
 NFLはペイトリオッツのスターQBトム・ブレイディが不正行為を知っていたと判断して、開幕から4試合の出場停止処分を科すと発表した。さらに、チームに対しては100万ドルの罰金に加え、来年のドラフト1巡指名権と再来年の4巡指名権をはく奪する。


 疑惑が発覚してからNFLは弁護士のテッド・ウェルズ氏に調査を依頼。4カ月近くの調査を終えたウェルズ氏は5月初めに243ページに及ぶ調査書をリーグに提出した。
 その中でボールの空気圧を低くする違反行為に、チーム職員二人が深く関与しているとの見解を示した。そして、ブレイディも彼らの違反行為を知っていた可能性が高いと報告したのだ。


 NFLは、ブレイディが二人の違反行為を知っていながらボールを使用していたことは試合の尊厳を損なう重大なルール違反であると判じ、厳しい判断を下した。
 調査の段階で、要求された携帯電話の通信記録の提出を拒むなど、非協力的だったことも厳罰に影響したという。


 この処罰はスーパーボウル連覇を目指すペイトリオッツに戦力的な影響を与えるが、何よりも、将来の殿堂入りも確実なブレイディの評判を地に落とすことになる。
 報告書、通称「ウェルズリポート」はブレイディが違反行為を認知していた確たる証拠を提示していないが、調査によって明らかになったさまざまな状況からその可能性が「more probably than not」であるとしている。


 ちょっとわかりづらい言い回しだが、「おそらくそうであろうと考えられる」といったようなニュアンスで、つまりは「限りなくクロである」と言っているのだ。NFLはブレイディの関与を認めるに足りる報告であると判断した。


 「デフレートゲート」と名付けられた試合球減圧疑惑の事実関係をもう一度おさらいしておこう。
 AFC決勝の最中に対戦相手のコルツ側から、ペイトリオッツの提供した試合球の空気圧が異常に低いのではないかとの申し出があり、ハーフタイムに審判団が検査した。
 その結果、ペイトリオッツが提供した試合球12個のうち11個のすべてで空気圧がルールで定められた、1平方インチあたり12・5~13・5ポンドを下回っていた。調査されなかった1個はコルツ側がインターセプトし、減圧球の証拠として確保していた。


 反対にコルツ側が提供したボールは4個検査され、すべてが規定通りの空気圧だった。コルツが提供したボールもあと8個あったが、これは検査する時間がなかったという。


 ハーフタイム中に試合球はすべて規定通りに空気圧に修正されて後半が再開。試合はペイトリオッツが45―7と大勝してスーパーボウル出場を決めた。ブレイディ個人の成績は、減圧したボールを使用していた前半よりも後半の方が数字はいい。
 試合後、ボールの空気圧の問題が報道されて明るみに出る。以前からペイトリオッツにはボールを減圧しているとの疑惑があり、コルツはインターセプトしたボールをあえて返還せずに告発の証拠として使ったとも報じられた。


 審判団はチームから提供される試合球の空気圧が適正かどうかをゲーム前に調べる規則になっている。この試合でもそれは行われ、すべてのボールで異常は見られなかったと当日の主審ウォルト・アンダーソン氏が証言している。検査された試合球は審判のロッカールームに保管される。


 NFLはすぐに疑惑解明のための調査を開始。ペイトリオッツの用具係やロッカールームにアクセスのある職員、選手からの聞き取り調査などを行う一方で、施設内の防犯カメラなどの解析に努めてきた。  当初はスーパーボウル前後にも調査結果が発表される予定だったが、予想以上に難航して5月の報告書発表となった。


 さて、この報告書ではチームのロッカールーム担当のジム・マクナリー氏と用具係アシスタントのジョン・ジャストレムスキー氏の二人が減圧行為を実行したとしている。
 防犯カメラにはマクナリー氏が試合球を審判のロッカールームから無断で持ち出す姿が映っていた。


 また、証拠として提出されたマクナリー、ジャストレムスキー両氏の携帯電話の通話記録、メールのやり取りも報告書は詳しく取り上げている。
 そのなかで、二人はブレイディが空気圧の低いボールを好むことを知っており、恒常的に減圧行為を行っていたと思われる連絡のやり取りがあった。


 あるときには、「ブレイディにサインをしてもらうグッズを持ってくるのを忘れるなよ」などという文面もあり、あたかもブレイディの指示によって減圧行為を行い、その見返りとしてサインをもらっていたかのようにも受け取れる。ただし、報告書はこれを裏付ける証拠を提示できていない。


 ブレイディはウェルズ氏との聞き取り調査には応じ、関与を否定しているが、前述のとおり携帯電話の通信記録の提出は拒否した。
 それでもウェルズ氏は実行者の二人の通信記録から、「少なくともブレイディが減圧行為を知っていた可能性が高い」と判断した。


 この報告書に対し、ペイトリオッツ側はロバート・クラフト・オーナーが「受け入れがたい」と反発し、ブレイディの代理人ドン・イー氏は「最初からブレイディを疑うという結論ありきの強引な論調だ」と批判している。


 報告書はペイトリオッツのクラフト・オーナー、ビル・ベリチックHCの関与を示す証拠は見つからなかったとしているが、チーム職員の関与が決定的だと判断したNFLはペイトリオッツの責任も追及する意味で罰金とドラフト指名権の没収を科した。
 罰金額が高く、ドラフト指名権も貴重な1巡を含む厳しい内容になっているのは、2007年に発覚した「スパイゲート事件(対戦相手ジェッツのサインをビデオ撮影するという違反行為で処罰)」に続く不祥事だからだろう。


 ペイトリオッツはこの処罰とは別に、マクナリー、ジャストレムスキー両氏を無期限の資格停止とした。NFLの許可なしにこの二人が職場復帰をすることはできない。


 NFLの処罰に対し、ブレイディは異議申し立てをする方針だ。そうでなければ、減圧行為への関与を自ら認めたことになり、聞き取り調査で虚偽の証言をしたことになるからだ。
 となれば、確たる証拠がないだけに処分が取り消される可能性も否定できない。NFLにとってもリーグを代表するスター選手の欠場はできれば避けたい事態だ。


 ブレイディはこの報告書について直接の発言は避けている。この報告書が発表されても、「スーパーボウルに勝ったという名誉は揺るぐものではない」と述べただけだ。しかし、実際にはそうではない。
 異議申し立ての結果、最終的にどのような処罰となるのかは別として、ファンの間にはペイトリオッツとブレイディに対する不信感が芽生えてしまった事実は消えない。輝かしい戦績を残してきただけに、そこに残る傷跡もまた目立つものとならざるを得ない。


 火のないところに煙は立たない。しかし、火元は特定されなくても煙にいぶされた臭いは、いつまでも残るものなのだ。

【写真】優勝した2月1日のスーパーボウルでパスを投げるペイトリオッツのQBトム・ブレイディ(AP=共同)