今年のドラフト候補生には二人のハイズマントロフィー受賞QBがいる。2013年年受賞のジェーミス・ウィンストン(フロリダ州立大学)と昨年のマーカス・マリオッタ(オレゴン大学)だ。この二人のどちらが先に指名を受けるかが論議を呼んでいる。


 最近ではサム・ブラッドフォード(2008年受賞、現イーグルス)とティム・ティーボウ(2007年受賞、現フリーエージェント)に二人のハイズマンQBがドラフトにエントリーした例があるが、NFL史上でも珍しいことだ。


 ただし、今年の二人のQBはプレースタイルが大きく異なる。ウィンストンはCの真後ろにセットしてスナップを受け、ドロップバックしてパスを投げるポケットパサータイプだ。プロのチームの多くがこのタイプのQBを採用しているため、一般的に「プロスタイル」と呼ばれる。


 それに対し、マリオッタがオレゴン大学で学んできたのはスプレッド隊形から繰り出すアップテンポなオフェンスで、QBの運動能力と走力が大きな意味を持つ。


 昨今ではNFLでもスプレッドが導入され、前オレゴン大学HCだったチップ・ケリーが率いるイーグルスなどはカレッジからそのまま輸入したようなプレーを多く採用している。
 かたくなにプロスタイルを堅持してきたNFLがカレッジスタイルのプレーを導入し始めた時期については、2008年の「ワイルドキャット」の流行が一つのきっかけと考えることができるだろう。


 しかし、スピードのミスマッチを図るワイルドキャットは高い運動能力を持つNFLでは長く持たなかった。翌シーズンには対策が確立され、現在ではガジェット(トリック)プレーとしてスポット使用されるにすぎない。


 QBにけがをさせるわけにはいかないという大前提を覆してオプションプレーの導入に踏み込むチームが現れたのが2012年だった。この前にもパンサーズがキャム・ニュートン(2010年ハイズマントロフィー)を中心に使うことはあったが、それはあくまでも「QBが走ることの意外性」を狙ったプレーでしかなかった。
 しかし、この年はロバート・グリフィン3世(レッドスキンズ)、ラッセル・ウィルソン(シーホークス)らがNFL入りし、当時49ersで2年目コリン・キャパニックも加わってRBを絡めた本格的なオプションプレーの導入を決断するチームが複数現れた。「ピストルフォーメーション」が一般的に広まったのもこの年だ。


 そして、その旗手である49ersがスーパーボウルに出場する(レーベンズに敗戦)に至ってオプションプレーは完全にNFLの一部と化したかに思われた。
 しかし、皮肉なことにグリフィンがプレーオフで膝の靱帯を断裂してしまい、「QBを保護する」という大前提に立ち返ったNFLは再びオプションとの決別に向かうのだった。


 今ではキャパニックやウィルソンですらめったにオプションプレーを披露しない。そして、オプション向きとされたピストルフォーメーションはパス仕様に改良され、(脚力を武器としない)ペイトン・マニング(ブロンコス)ですら多用するようになっている。


 こう書いてくると、いかにもウィンストンがNFL向きでマリオッタが通用しそうもないと主張しているように聞こえるかもしれないが、決してそれが言いたいわけではない。筆者が言いたいのはハイズマントロフィーをとったQBがNFLで成功した例は少ないということだ。


 その傾向は1980年代以降に特に顕著だ。80年代で最初にハイズマンQBとなったのは84年受賞のダグ・フルーティー(ボストンカレッジ)だ。
 大学時代の奇跡的な逆転劇で話題を呼んだフルーティーだったが、177センチという身長が災いしてドラフトでは11巡指名。失望したフルーティーはUSFL、CFLといったほかのプロリーグに活躍の地を求めた。


 結果的にCFLで大成功を収めて1998年にNFLに凱旋し、ビルズで活躍する。しかし、1999年シーズンに重要なプレーオフを前に先発降格を言い渡される憂き目にあう。ちなみに、この敗戦を最後にビルズはプレーオフから遠ざかっている。


 2年後の受賞者ビニー・テスタバーディ(マイアミ大学)はキャリアこそ長かったが、パスの精度が悪くなかなか活躍をすることができなかった。円熟味を身に付けたキャリア晩年にはレーベンズやジェッツで実績を残したが、全体としては期待外れに終わった。


 89年のアンドレ・ウェア(ヒューストン大学)あたりからカレッジとNFLのプレースタイルの差が歴然とし始めた。カレッジでは運動能力に長けていれば勝てたが、トップアスリートの集団であるNFLではそうはいかない。
 他ポジションへのコンバートを条件にドラフト指名を打診されるQBも少なくなかった。それは、ハイズマンQBでも例外ではなく、90年受賞のタイ・デトマー(ブリガムヤング大学)も似た打診を受けた一人だった。ただし、デトマーはそれを拒否し、あくまでもQBにこだわった。


 91年以降は昨年まで16人のハイズマンQBがNFL入りした。その中で実績を残したといえるのは2002年のカーソン・パーマー(現カージナルス)とニュートンくらいだ。
 むしろ、現在NFLでトップQBに数えられるトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)、P・マニング(ブロンコス)、ドルー・ブリーズ(セインツ)、アーロン・ロジャース(パッカーズ)、ベン・ロスリスバーガー(スティーラーズ)はいずれもハイズマントロフィーとは無縁だったが、スーパーボウルリングを保持している。


 ハイズマントロフィー受賞選手者あくまでも大学最優秀選手であって、NFLで活躍するための約束手形ではない。それをわかっていないのは選手ではなく、むしろチーム側に多い気がする。
 ハイズマントロフィー受賞という事実を重んじるばかりに、選手がチームのニーズや戦術に合致するか否かの判断がおろそかになってはいけない。


 ウィンストンは全体1位指名権を持つバッカニアーズが獲得することが濃厚だと予想されている。マリオッタはブラウンズ、ベアーズ、チャージャーズ、ラムズなどが候補に挙がっている。


 ドラフト初日(4月30日)まではまだ時間がある。この二人が1巡指名に値するかも含めて再考するには十分だ。
 ハイズマントロフィー受賞者という肩書をいったん忘れて彼らを研究した時、同じ結論に達するだろうか。QB指名の成否はチームの命運を左右する。最後まで慎重な検討が必要だ。

【写真】NFLが注目する2013年ハイズマントロフィー受賞者、フロリダ州立大学QBウィンストン(AP=共同)