現在のNFLを代表するRBの一人で、2012年にはリーグのMVPにも選ばれたエイドリアン・ピーターソンの去就が話題となっている。
 07年のNFL入りから昨季までバイキングズに所属していたが、最近になってピーターソンの代理人が本人にチーム残留の意思がないことを表明した。これに対してチーム側は3年間残っている契約をたてにピーターソンの保有権を主張しており、去就問題は泥沼化している。


 ここまで関係がこじれたのには理由がある。昨年、ピーターソンは4歳の息子に対して木の枝で打擲(ちょうちゃく)したことが発覚し、幼児虐待の容疑で逮捕された。
ピーターソンは息子を傷つける意図はなく、彼自身が父親から受けた躾と同じ手法をとったにすぎないと主張した。


 逮捕を受けてNFLは昨季第2週からピーターソンを出場停止処分として、ロジャー・グッデルコミッショナーの管理下に置かれる「特別枠」に登録された。
 この特別枠に登録されるとその選手は試合への出場はもちろん、チーム活動に参加することができない。事実上の資格停止である。


 ピーターソンの裁判は彼が司法取引に応じる形で結審し、現在は自由の身となっている。そのため、連邦裁判所はNFLにピーターソンの処分の即時解除を命じたが、NFLはこれに反発して抗告。現在も処分は継続中だ。
 ただし、過去の例に照らせばピーターソンのように行動規範から逸脱したことを理由に処分を受けた選手は、新シーズンには解除されることが多い。ピーターソンもキャンプの始まる夏までには処分が解除される可能性が高い。


 ところが、ピーターソンにバイキングズで復帰する意思がないことが明らかにされた。彼の代理人であるベン・ドグラ氏は「エイドリアンはバイキングズ以外のチームでプレーすることを望んでいる」と発言している。
 ドグラ氏によれば出場停止処分が科される過程でバイキングズから支援を受けられなかったことで、ピーターソンはチームへの不信感を募らせたという。ドグラ氏はさらに、「エイドリアンは今でもバイキングズの顔というべき選手であるのか、それとも30歳の(年老いた)RBと考えているのかはっきりしてもらいたい」とも述べ、バイキングズがピーターソンを今後どう扱う方針なのかを問うている。
 ピーターソン側は次第に態度を硬化させており、チームのGMリック・スピールマンが提案した会食を拒否したと伝えられる。


 契約下にあるのだからチームに復帰するべきというバイキングズの主張は正しい。ただし、ここまで関係が悪化している以上はピーターソンにもバイキングズのためにプレーするというモチベーションは低いだろう。
 不幸なことに、バイキングズでは昨年HCがマイク・ジマーに代わったばかりだ。ジマーの下ではピーターソンはわずか1試合にしか出場していない。ジマーとピーターソンの間に信頼関係が築かれるには時間が少なすぎたかもしれない。


 ピーターソンの意向を汲むとすれば、バイキングズは彼をトレードに出すか解雇するかの選択肢しかない。ピーターソン側は解雇を望んでいる。フリーエージェント(FA)となって自由にチームとの交渉ができるからだ。しかし、バイキングズは見返りを期待できるトレードの実現を画策する。


 ただし、このトレードはなかなかうまくいきそうもない。RBの必要なチームはカージナルス、カウボーイズなどいくつかあるが、ピーターソンの今季の年俸は1275万ドルにも及ぶため、基本的に既存契約が 維持されるトレードでの移籍は難しいのだ。
トレード後に選手と契約を結び直すことは可能だが、選手側が拒否すればそれも成り立たなくなる。


 また、今年のドラフトはトッド・ガーリー(ジョージア大)、メルビン・ゴードン(ウィスコンシン大)、テビン・コールマン(インディアナ大)など1巡指名を受けそうなRBの人材が豊富で、わざわざ高い年俸を払ってまでピーターソンを獲得する必要はないと考えるチームもあるだろう。


 現在、バイキングズはピーターソンのトレード放出も解雇もないと明言しているが、これは額面通りに受け取ることはできない。いい交渉相手が見つかればトレードに傾くだろうし、契約解除が有利だと判断すれば解雇にも踏み切るはずだ。


 4月30日から3日間にわたってシカゴで行われるドラフトは、ピーターソンの去就を大きく左右する可能性がある。
 当日になってめまぐるしく行われる指名権のトレードの交換条件としてバイキングズがピーターソンを切り札とすることは十分に考えられるし、ドラフトの結果他に移籍先が見つからずにピーターソンがバイキングズ復帰を承諾する場合だってあるだろう。
 将来の殿堂入りも夢ではないピーターソンだけに、今後の展開は大いに注目される。

【写真】昨年8月のトレーニングキャンプで息子のエイドリアンJr君にキスをするピーターソン(AP=共同)