既にNFL歴代屈指のQBに数えられているペイトン・マニング(ブロンコス)が、新たな金字塔を打ち立てた。第7週の49ers戦で四つのTDパスを成功させ、通算510個目をマーク。パッカーズなどで活躍したブレット・ファーブの持っていたNFL記録を更新したのだ。


 1試合で4TDパスはマニングにとってこれが33回目で、これも歴代最多である。38歳にしてまだ衰えを知らず、それどころかまだまだ進歩を続けている印象さえ与える稀代の名パサーだ。


 マニングがNFL入りしたのは1998年のこと。ドラフト全体1位指名を受けてコルツに入団した。新人ながら開幕先発を務めると、瞬く間にNFLを代表するQBとなった。2006年にスーパーボウル初出場で初制覇、09年にもスーパーボウルに出場したが、セインツに敗退した。


 徹底したスカウティングで対戦するディフェンスの傾向と弱点を分析し、的確なパスで攻略する。レシーバーたちと一緒にフィルムスタディーを行って、フィールド上で自分の望む動きができるように「教育」する。
 コルツ時代のWRレジー・ウェイン、ピエール・ガーソン(現レッドスキンズ)、TEダラス・クラーク(引退)、ブロンコスのTEジュリアス・トーマスらはいずれもマニングの薫陶を受けてトップクラスのレシーバーに育った。


 コルツ在籍時代は10年の最終戦までプレーオフを含み、全試合に先発出場した。しかし、長年のNFL生活で体が万全であり続けられるはずもなく、ついに11年には首の故障で1年間の欠場を余儀なくされた。
 同じ箇所に4度も手術を受けたほどの重傷で、再起不能の噂も流れた。事実、手術後も回復には時間がかかり、パスを投げる右肩から腕にかけての力がなかなか戻ってこなかった。


 マニングの完全回復は無理と判断したコルツは12年に彼を解雇し、その年のドラフトでアンドルー・ラックを全体1位指名して後継者とした。一方のマニングはブロンコスとFA契約を結び、デンバーで新たなスタートを切ったのだった。


 ブロンコス移籍後のマニングは、周囲の限界説をあっさりと否定する活躍を見せた。首の手術の後遺症も感じさせず、チームをプレーオフに導いた。
 昨季の開幕戦ではスーパーボウル王者レーベンズを相手に、NFLタイ記録となる1試合7TDパス成功という快挙を成し遂げ、ブロンコスをスーパーボウルに導くとともに自身5度目のリーグMVPに選出された。MVPを4回以上受賞した選手はマニングのほかに存在しない。


 スーパーボウルでのメディアデー(記者会見)でのことだ。ある質問に答えていたマニングは何気なく、「自分のNFLキャリアも半ばに差し掛かって…」と言ったところ、メディアから「半ば?」と突っ込まれた場面があった。
 マニングは苦笑して「後半に差し掛かった」と言いなおしたが、17年目を迎えてまだ引退のことは全く考えていないことがこの発言からうかがえる。


 QBは他のポジションに比べて選手寿命が長いとはいえ、30代後半にもなれば肩の衰えも目立つようになるのが普通だ。ところが、マニングの場合は歳を重ねるごとに上達を続けているように見え、あと4、5年は一流のレベルを保てるのではないかとさえ思えてしまう。
 一見、ブロンコスにとってはありがたい話のようだが、長い目で見ると必ずしもそうではない。マニングが一線で活躍し続けるということは2番手のブロック・オズワイラーが出番のないまま過ごすということだ。


 オズワイラーはラックやロバート・グリフィン、ライアン・タネヒルと同じ12年のNFL入りだ。そして、ラッセル・ウィルソン(3巡)よりも早い2巡で指名を受けた。
 しかし、これまでに試合出場は10試合のみで、パスは21回の試投で13回の成功、107ヤード獲得でTDもインターセプトも記録していない。このままでは実戦経験を積む前に歳だけとっていってしまうのだ。


 これと似たケースは過去にもあった。「鉄人」と言われ、故障欠場のなかったファーブは07年までパッカーズで先発QBの座を守った。そのため、05年に1巡指名を受けたアーロン・ロジャースは08年の開幕戦まで先発出場のチャンスに恵まれなかった。
 幸い、ロジャースはパサーとしての才能を早くから開花させ、10年にはスーパーボウルで優勝することができた。今ではNFLのエリートパサーの一人に数えられる。


 同じ道のりをオズワイラーがたどるとは限らない。ロジャースはマイク・マッカーシーというQB育成に実績のあるHCの指導を直接受けることができた。ブロンコスにはこういった指導者はいない。なぜなら、コーチ並みの知識を持つマニングには不要だからだ。
 マニングが突然の負傷で戦列を離れることになった場合、現在のブロンコスのオフェンスのレベルをオズワイラーが維持できるかはわからない。実戦経験が少ないために推測することすらかなわない。また、マニングが引退した際にスムーズにオズワイラー体制に移行できるかも不透明だ。


 以前にもこのコラムで書いたが、この3年ほどのブロンコスの性急なまでの選手補強はのちに大きな不安を残す。確かに、短期的なプランでは成功を収めている。
 今季も5勝1敗でスーパーボウルに最も近いチームの一つだ。しかし、長期的視野に立つとビッグネーム獲得に払った高額年俸は大きなツケとなって跳ね返ってくる。


 NFLはサラリーキャップ(総年俸制限)制度を導入しているから、選手に払う年俸は上限が決められている。それを超過する場合は高額年俸の選手を放出せざるを得ない。このために戦力を落として低迷期に入った例は過去にいくつもあるのだ。


 マニングの実績は偉大なものだ。しかし、ブロンコスはそれを祝福すると同時に「ポストマニング」時代への備えをしておかなければならない。必要であればオズワイラーを早くにトレード放出し、新たに若いQBを獲得するという選択肢も考えるべきだ。
 スーパーボウル優勝はジョン・エルウェイGM自身も2度経験した究極の目標だ。ただ、長く続く黄金時代を築きたいなら、その先を見据えた考えたチーム運営が重要なのだ。


 そのマニングとブロンコスは第8週に大一番を迎える。ディビジョンライバルで、5勝2敗と好調なチャージャーズをホームに迎えて対戦するのだ。これはAFCウエストの地区優勝を占う上で重要な試合だ。
 昨季の対戦は1勝1敗。チャージャーズは第7週で同じ地区所属のチーフスに敗れており、連敗は許されない。


 いつものようにショートパスとランの組み合わせでボールをコントロールし、ブロンコスの攻撃時間を減らして接戦に持ち込みたい。ブロンコスはLBボン・ミラー、デマーカス・ウェアのパスラッシュが好調で、チャージャーズのQBフィリップ・リバースにプレッシャーをかける。


 イーグルス(5勝1敗)がアリゾナに乗り込んでカージナルス(5勝1敗)と対戦する試合も興味深い。イーグルスはアップテンポなオフェンススタイルで高得点を狙う。カージナルスはじっくりとパスを組み立てていくチームだ。
 対照的なオフェンスながら、好調なチーム同士の対戦はプレーオフでのシード順位争いにも影響を与えそうだ。カージナルスのホーム、フェニックス大学スタジアムは来年2月のスーパーボウルの舞台でもある。


 04年シーズン以来のスーパーボウル出場を狙うイーグルスは、スタジアムの「下見」ができる。一方のカージナルスはスーパーボウル史上初の地元チームの出場を目指す。

【写真】TDパスのNFL記録を更新したブロンコスのQBマニング(AP=共同)