7月も下旬となれば、NFLでは各チームがトレーニングキャンプを開始する時期だ。通常は本拠地のスタジアムや近郊の大学の施設を使って練習する。大学施設を借りる場合は、選手も学生寮に泊まり込んでの合宿となる。


 春にチームを組織し、数試合のオープン戦を消化、夏合宿を経て秋のリーグ戦に突入という日本のフットボールのスケジュールに慣れている人から見ると、NFLの練習時間はあまりに短く感じるかもしれない。


 2月上旬にスーパーボウルが終わり、3月のフリーエージェント・トレードによる移籍の解禁、5月のドラフトなどチーム編成が進んでいるが、実はこの時期まで選手たちはほとんど練習をしていないに等しい。
 もちろん、各自でトレーニングを積み、自主的に選手が集まって合同練習をすることはあるが、チームが集まって練習をする機会は数回しかないのだ。


 現在のNFLとNFL選手会(労働組合)の間で結ばれている労使協定では、公式戦終了からキャンプ開始までの間にチームが主催する練習は、ルーキーキャンプ、ミニキャンプとOTA(Organized Team Actevity)と呼ばれるチーム全体練習の三つだけに限定されている。
 いずれも、わずか数日間で終了する。さらに、この練習の期間でもヘルメットなど防具のフル装備は禁止、従ってコンタクトを伴う練習も不可という制限がついているので、実際には新たな戦術を導入してもそれを実行するチャンスはないのである。


 これら3回の公式練習を除けば、選手とコーチが会うことすら禁じられている。だから、昨シーズン終了直後に解雇されたHCに代わって就任する新たな指揮官が、5月になって初めて選手と顔を合わせるということも珍しくない。
 日本なら春合宿で新たな戦術を導入し、オープン戦でそれを試して夏合宿で精度を上げ、シーズンを迎えるというスケジュールだが、NFLではトレーニングキャンプからすべてが始まると言っても過言ではない。


 トレーニングキャンプではもちろんフル装備の練習が許され、ガチンコのコンタクトも行われる。オフのトレーニングを怠っていた選手がここで大ケガをしてシーズンを棒に振ることも多い。
 シーズン開幕までわずか40日前後の日程で新たな戦術を導入し、タイミングやコミュニケーションを確立して戦力を整えることができるのは、やはりNFLが類い稀なアスリートによるフットボールのプロ集団だからなのだろう。


 キャンプ当初は各チーム最大90人まで選手を登録することができる。しかし、この人数は8月下旬(今年は27日)に75人に、そして、8月31日にはシーズン中の登録上限である53名にまで絞らなければならない。
 各チームはトレーニングキャンプと4試合行うプレシーズンゲームによって個々の選手の能力を把握し、必要な選手のみを残してあとは冷徹に解雇していかなければならない。プロの厳しさをまざまざと見せつけられる瞬間だ。
 しかし、こうした厳しさがあるからこそ、最終ロースターに残留を果たした選手たちはファンを魅了するプレーを披露することができるのだ。


 キャンプの見所は何と言ってもポジション争いだ。それも、戦力を左右するQBの先発の座をめぐる競争は熾烈だ。今年は、ジェッツ、ブラウンズ、テキサンズ、ジャガーズ、バイキングズ、バッカニアーズでQB争いが演じられそうだ。
 ジェッツは昨季、新人のジーノ・スミスを開幕から起用した。パスのコントロールに難のあるスミスは苦戦したが、終盤4試合で成長を見せてレックス・ライアンHCの評価を得た。ジェッツはオフにファルコンズやイーグルスで活躍したマイケル・ビックをフリーエージェントで獲得し、この両者のポジション争いで優位に立った方に今季の先発QBを任せる方針だ。


 両者とも走力に自信があり、その反面でパスの精度に欠けるという共通点を持つ。パスの安定が重要なのは言うまでもないが、不得手な部分を自分の走力で補ってドライブを継続できる能力があれば合格点をもらえるだろう。
 ジェッツはかつて2000ヤードラッシュを達成したRBクリス・ジョンソンも獲得しているから、必ずしもパスに頼る必要はない。オフェンスをいかに効率よく進めて得点できるかが鍵となる。
 バッカニアーズは2年目のマイク・グレノンと13年目のベテラン、ジョシュ・マカウンの争いだ。マカウンはキャリアこそ長いが、そのほとんどはバックアップとして過ごしてきた。


 しかし、昨年ベアーズで、故障欠場のジェイ・カトラーに代わって出場した際の活躍が認められて入団した。彼を呼び寄せたのは新HCのラビー・スミス。スミスはかつてベアーズでHCをしていた頃にマカウンを指導したことがあり、現時点では彼を先発に指名している。
 しかし、キャンプやプレシーズンゲームでグレノンがマカウンをしのぐ活躍を見せればスターター交代は十分にあり得る。


 テキサンズは昨年8試合に先発しながら1勝もあげられなかったケイス・キーナムと元ビルズの先発ライアン・フィッツパトリックのパサー対決だ。どちらも肩が強く、パスでの実績も豊富だが、インターセプトが多いなど安定感に欠ける。
 どちらも結果を残せないようだと、急遽フリーエージェントから新戦力を獲るという可能性も否定できない。
 そのほかの3チームは、いずれもベテランに今年のドラフトで1巡指名を受けたQBが挑戦する形だ。


 1巡3番目でジャガーズに指名されたブレイク・ボートルズはチャド・ヘニーに挑む。ヘニーはドルフィンズで先発経験を積んだ、パスを得意とするQBだ。昨年は控えだったが、ブレイン・ギャバートの不振で先発に昇格した。
 ヘニーもボートルズもパスプロテクションの中であまり動かずにレシーバーを探す「ポケットパサー」タイプだ。どちらがより正確で、タイミングの合ったパスを多く投げられるかが勝負の分かれ目か。


 ただ、今年のジャガーズはレシーバー陣に人材が不足している。エースWRジャスティン・ブラックモンは無期限の出場停止処分中。ほかに実績あるレシーバーが不在という状態だ。こうした状況では経験の豊富なヘニーに有利かもしれない。


 テキサス農工大時代に「ジョニー・フットボール」とのニックネームを付けられるほどプレーメーカーとして人気を博したジョニー・マンゼルは、ブライアン・ホイヤーとブラウンズの正QBの座を争う。
 1999年のチーム復活以降エースQB不在の時期が続くブラウンズがマンゼルに寄せる期待は大きい。しかし、過去に新人QBの投入を急ぐあまりに失敗例を重ねてきた反省もあり、チームはマンゼルの早期の先発起用には慎重だ。


 とはいえ、レプリカジャージの売り上げがNFLでトップになる(公式ショップサイトの4月1日から7月17日までの実績)ほどの人気選手であるだけに、マンゼルを長く控えにしておくわけにもいかない。
 身体能力に頼ったプレーで活躍できたカレッジとは違い、ディフェンスを読む力や素早くて正確な判断が要求されるプロの水にいかに早く馴染めるかが重要だ。


 バイキングズは昨年までの先発クリスチャン・ポンダー、ベテランのマット・キャセル、新人のテディ・ブリッジウオーターの三つ巴の戦いだ。
 経験ではキャセル、期待度ではブリッジウオーターに分がある。かつての1巡指名でもあるポンダーは先発の座を守るべく必死だ。この三者の争いは最後までもつれるかもしれない。

【写真】新人ながら活躍が期待されるブラウンズのQBマンゼル(AP=共同)