NFLに限らず、アメリカンフットボールでは戦術、戦略がそれこそ日々進歩していて、昨シーズン有効だった作戦が今年はもう通用しないということが当たり前に起こる。


 2008年にNFLであれほど猛威を振るった「ワイルドキャット」ですら、翌年にはほぼ完璧に対応策が考案され、今では1試合につき1、2プレーあるかないかだ。
 とどまることを知らない進化はポジションの概念すらも変えつつある。つい最近までNFLでは、スクランブルを除いてQBが自らボール持って走るプレーはタブー視された。故障をしたらオフェンスに大きなダメージが残るからだ。
 しかし、カレッジでスタンダードとなった「リードオプション」がNFLでも使われ始めると、QBのボールキャリアとしての才能が評価されるようになった。


 NFLでは最近、TEとWRをめぐる議論が起こった。発端はセインツとジミー・グレアムの契約延長交渉である。一般的にはTEと認識されていたグレアムは、このオフにFAの資格を得た。移籍を阻止したいセインツは彼を「フランチャイズ選手」に指定して、優先交渉権を確保した。


 フランチャイズ指定というのは説明が必要だ。各チームはFA資格を得た所属選手のうち、1年につき1人だけ「フランチャイズ選手」に指定することができる。指定された選手は所属チームが新たな契約を提示するまでほかのチームと契約交渉ができない。
 その代わり、その選手と同じポジションで前年度の高額年俸トップ5の選手の平均に相当するサラリーと1年の契約延長が保証される。フランチャイズ指定で合意した後に、長期契約を結び直すことも可能だ。


 グレアムはTEとしてフランチャイズ指定を受けたのだが、自分はWRとして見なされるべきだと主張したのだ。確かに、セインツのパスオフェンスではTEとWRの区別は明確ではない。TE登録のグレアムがフランカーやスプリットエンドの位置にセットして、フェードやコーナー、ポストなどWRと同じパスルートを走ることも珍しくない。
 彼がWRとしての役割を主張したのは、TEとWRでその平均年俸に大きな差があるからだ。昨年のTEの年俸トップ5選手の平均は約700万ドルであるのに対し、WRは1200万ドルだ。この差は大きい。だからこそグレアムもWRの待遇を望んだのだ。


 しかし、仲裁に入ったNFLはグレアムをTEと断定した。これには不服を申し立てたグレアムだったが、最終的にはセインツと総額4000万ドルの4年契約で合意に達し、NFLで最高額の年俸を手にするTEとなることで丸く収まった。
 このように、ポジションの垣根がなくなりつつあるのが最近のNFLの傾向だ。DTとDE、DEとOLBなど、チームによっては兼任する選手もいるし、あえてポジションを入れ替えることで相手を混乱させる作戦も用いられる。


 主にRBのリードブロックを担当するFBなどはNFLでは姿を消しつつある。2バックフォーメーションを採用するチームそのものが希少となっているし、ボールキャリーをしない選手にロースター枠と年俸を割く余裕はどのチームにもないからだ。
 FBを置かないチームはTEやOL、DLで代用することが多い。


 グレアムのように役割の多様化を根拠に、契約交渉を有利に運ぼうとする選手は今後も出てくるに違いない。戦術のトレンドに合わせて、NFLもポジションの定義を再考する時期に来ているのかもしれない。

【写真】セインツのパス攻撃の要として活躍するTEグレアム(AP=共同)