筆者にはコレクターとしての趣味はないのだが、ただ一つ大切に保管しているものがある。それは過去に取材したスーパーボウルの「メディアピン」である。


 メディアピンとはその名の通り、取材するメディアに配られる記念品のピンバッジで、ID登録を済ませるともらえる。記念品にはほかにペンやノートがある。
 かつてはカバンやワッペンなどももらえた。これらはいずれも非売品で、マニアには垂涎の的。オークションサイトでは高値で取引されることもある。


 筆者は第28回大会(1993年シーズン)から40回大会(2005年)までと43、44、47、48回大会の計17回取材してきた。
 39回と今年の48回大会ではピンバッジが発行されなかったので、所有しているのは15個ということになる。
 写真1の右最前列が第28回大会で、その後ろに大会ごとのピンを並べている。空いている場所はピンが発行されなかったか、筆者が取材しなかった大会である。


 メディアピンはその大会の特徴を生かした個性的なデザインになっている。たとえば、写真2はアリゾナ州フェニックスで初めて行われた第30回大会(1995年シーズン)のもの。砂漠を象徴するサボテンをモチーフにし、西部開拓時代を彷彿とさせる馬車が描かれている。
 実はアリゾナ州は第27回大会の招致に名乗りを上げていたが、認可されなかった。それは80年代後半に、ほとんどの州で制定されていた「マーチン・ルーサー・キング牧師記念日」を設けていなかったことが主な理由だとされる。


 キング牧師はアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として絶大な尊敬を集めており、誕生日である1月15日を国民の祝日にしようという機運が80年代に高まっていた(現在は1月の第3月曜日)。
 その流れに反したことに対する内外の批判を受けたアリゾナ州は、1992年にキング牧師記念日を設けて、晴れてスーパーボウルの招致に成功した。その気合が、砂漠にそびえ立つ「ビンス・ロンバルディー優勝杯」に感じられる。


 メディアピンにはその年ごとの大会ロゴがあしらわれるが、第29回大会(1994年シーズン)には、ロゴのローマ数字とは別に「75」が描かれている(写真3)。
 これはNFL誕生75周年を記念したものだ。アメリカでは25、50、75という数字を重視する習慣がある。25セントコイン(通称「クオーター」)が流通しているのもその表れだ。


 NFL75周年も盛大に祝われ、これを記念した歴代ベストメンバーを選出する企画も行われた。
 QBジョニー・ユナイタス、RBジム・ブラウン、ウォルター・ペイトン、DTジョー・グリーン、LBジャック・ハム、ディック・バトカスといったそうそうたるメンバーが名を連ね、当時の現役ではQBジョー・モンタナ、WRジェリー・ライス、DEレジー・ホワイト、CBロッド・ウッドソン、Sロニー・ロットら、のちに殿堂入りする選手が選ばれている。


 さて、筆者の所有するメディアピンの中で、唯一大会ロゴが刻まれていないものがある。それが写真4の第36回大会のものだ。
 ビンス・ロンバルディ・トロフィーに星条旗が写し込まれたようなシンプルなデザイン。これは、2001年シーズンのスーパーボウルのもので、この年の9月11日に発生した同時多発テロを色濃く反映したものだ。


 世界中を恐怖に陥れたこのテロは、NFLにも大きく影響を及ぼした。その週末に予定されていたシーズン第2週は延期となり、スーパーボウルも当初の予定の1月下旬から2月上旬にずれ込んだ。
 この年の開催地はニューオーリンズだったが、舞台となるスーパードームは既にほかのイベントで予約されていた。そのため、NFLは莫大な補償金を払って開催権を譲ってもらい、1週遅れのスーパーボウルを開催したという経緯がある。
 これをきっかけに、カンファレンス決勝とスーパーボウルの間には1週間のオフを入れるようになり、さらにスーパーボウル開催予定日の1週間後も予備日としてスタジアムとホテル数を押さえておくようになった。


 「9・11」後はアメリカの愛国心が強調されていった。すでに発表されていたスーパーボウルのロゴも、星条旗を描いたものに差し替えとなり、当日のハーフタイムでは天井からつりさげられた大きな垂れ幕に犠牲になったすべての人の名前が記されるという演出もあった。優勝したのが「愛国者」を意味するペイトリオッツだったのも印象的だった。


 筆者にとって所有するメディアピンは収集の対象ではない。自分の取材していない大会のものには何の興味もない。なぜなら、メディアピンを見るたびに取材を通じてしか見ることのできないそれぞれの大会のドラマがあるからだ。
 スタジアムの雰囲気や試合の熱気、時間に追われた取材など、さまざまな思い出もよみがえってくる。秘蔵のコレクションというほどのものでもないが、やっぱり譲れないものだ。

【写真】生沢さんが所有しているスーパーボウルの「メディアピン」