NFLのオフシーズンの最大イベント、大学ドラフトまであと1カ月となった。今回で79回目となるドラフトは、例年より10日ほど遅い5月8~10日の日程でニューヨーク市のラジオシティミュージックホールで行われる。


 ドラフトはフリーエージェント(FA)制度と並ぶ補強策の二本柱だ。各チームとも専任のスカウトスタッフを用意してカレッジからの人材発掘に努めている。
 一口に「ドラフト戦略」と言ってもチームによって、またはポジションによってその有り様は大きく異なる。
 人事権を持つGM主導で戦略を練るチームもあれば、現場指揮者であるHCの意向通りに人材を集める方針の球団もある。このあたりはGMとHCの力関係も左右し、チームの組織としてのまとまりの有無が顕著に表れるところでもある。


 一般的にドラフトでは補強が必要なポジションを優先に人材を確保していくが、必ずしもそうしたチームばかりではない。喫緊のニーズよりも選手のタレント性を重視し、指名の順番がきたときに残っているなかで最も運動能力の高い選手を選ぶのだ。
 OLが必要なのに、WRやCBといったスキルポジションを優先して指名し、ファンを落胆させるチームも少なくない。


 一見、無計画な戦略に思われるが、必ずしもそうではない。レベルの高いNFLの世界でも、一人の有能な選手の加入でチームの戦力が大きくアップすることは珍しくないからだ。
 現役の選手を例に挙げるなら、バイキングズのRBエイドリアン・ピーターソン、ライオンズのWRカルビン・ジョンソン、パンサーズのLBルーク・キークリーらは、たった一人でもチーム力を左右する存在感を持つ。


 こうした人材を獲得すれば短期間での戦力アップが期待できるし、さらにその選手を中心とした作戦の立案やチーム作りが可能となる。ただし、下位ラウンドやFAによる補強できちんとニーズにも応えておかないと、せっかく獲得したプレーメーカーを生かしきれない事態になるので要注意だ。
 1~2巡で指名される選手は即戦力、それも1年目から先発として活躍を期待されていると見て間違いない。CBやLTなど経験の必要なポジションもあるが、それでも2年経ってレギュラーになれないような選手は「バスト(期待はずれ)」のレッテルを貼られても仕方ない。


 3~5巡は、控えや育成対象となることが多い。バックアップQBが指名されやすいのもこのミドルラウンドだ。また、OLを1~2巡のような早い巡位で指名することに抵抗のあるチームはここで指名権を行使する。
 ただし、これらのラウンドで多くの人材を発掘することができれば戦力は長期にわたって安定する。


 これに成功したのがシーホークスだ。ディフェンスの中心であるCBリチャード・シャーマンやSキャム・チャンセラーはともに5巡で指名された。ダイヤモンドの原石のような選手がひしめくラウンドであり、いかに素材のよさを見極め、磨き上げて輝きある選手に育て上げるかはコーチの腕の見せどころだ。


 6~7巡はスペシャルチーム要員の確保や選手層を厚くする目的で選手を指名することが多い。KやPが指名されるのもこのラウンドだ。
 また、陸上競技やバスケットボールなどフットボール以外のスポーツで成功した選手を獲得するときにも使われる。即戦力としての期待は大きくないが、それでもセインツのWRマーキス・コルストンのように7巡指名から開幕先発の座を射止めた例もある。


 上位指名が期待はずれに終わったり、下位ラウンドから思わぬスターが誕生したり(こういう選手を「スリーパー」と呼ぶ。「眠れる獅子」といったところか)するところがドラフトの面白さであり、難しさだ。


 ポジションに求められる身体能力も時代とともに変わってきた。パスが主流になり始めた80年代にはパス守備を主に担当するDBにはサイズよりもスピードやパスカバーのテクニックが要求された。
 やがて長身レシーバーが増え、TEによるディープゾーンのパスプレーが多用されるようになると、それに対応するべくCBやSにもサイズが求められるようになった。


 ビッグプレーを阻止する目的で考案された「タンパ2」という守備スキームが流行した2000年代は、スピードのあるLBに人気が集まったが、QBのランが多くなってきた現代では再び大きくて強靭な人材の需要が高まっている。


 QBはいつのドラフトでも注目の的だが、最近ではモバイル型の選手も1~2巡で指名されて活躍するようになった。パンサーズのキャム・ニュートン、49ersのコリン・キャパニック、レッドスキンズのロバート・グリフィン三世らがそうだ。
 ポケットパサーでなければ指名されない、またはポジション変更を命じられた時代は既に過去のものとなった。


 肩の強さやディフェンスを読む能力がQBに求められる資質であることは不変だが、意外に重要視されているのが手の大きさだ。手の小さいQBはどうしてもファンブルが多くなる。自らボールを持って走る機会の増えた現代のQBは手が大きく、ボールをしっかりと握ることも重要なポイントなのである。


 身体能力と同じくらいに重視されるのが選手の人格だ。過去に犯罪歴や薬物使用歴がある選手はやはり敬遠される。リーダーシップの有無や協調性、そして、コーチの指導によって伸びる余地があるかどうかも慎重に検討される。


 これからの1カ月間、各チームはさまざまな観点から選手を分析し、ライバルチームの出方を予想しながら戦略を練る。
 不測の事態にも対応できるように十分に情報を収集してプランB(代替案)を用意しておくことも不可欠だ。シーズン中さながらの頭脳戦と情報戦が今も繰り広げられているのである。

【写真】イーグルスはセインツからRBスプロールズを獲得する見返りに、ドラフト5巡指名権を譲渡した(AP=共同)