FAやトレードによる移籍が解禁となった現地時間3月11日、NFLでは初日から早くも大きな動きがあった。


 今年のFA選手で最も注目を集めた選手の一人であるSジャイラス・バード(前ビルズ)は、セインツと総額5600万ドルの6年契約で合意に達した。
 タイタンズでプロボウルにも選出されたCBアウタラウン・バーナーはバッカニアーズに移籍し、普段はFA補強にあまり積極的ではないスティーラーズはSマイク・ミッチェル(前パンサーズ)を獲得した。


 その一方で、DEデマーカス・ウェア(カウボーイズ)、ジュリアス・ペパーズ(ベアーズ)、LBラマー・ウッドリー(スティーラーズ)CBダレル・リービス(バッカニアーズ)らビッグネームがチームから契約を解除されている。


 49ersは一気に二つのトレードを成立させた。ジャガーズからQBブレイン・ギャバートを、ドルフィンズからはいじめ被害を告発したOTジョナサン・マーティンをそれぞれドラフト指名権と交換で譲り受けた。
 49ersはFAではSアントワン・ベシア(前コルツ)を獲得し、退団が濃厚とうわさされるドンテイ・ウィトナーの代役を早くも見つけた。


 最も動きが活発だったのはブロンコスだ。CBアキーブ・タリブをペイトリオッツから引き抜き、ブラウンズで活躍したS、T・Jワードも獲得、そして、パスラッシュ強化の目的でウェア(3年)とも契約した。この3人の契約だけで年俸総額は1億1千万ドルに及ぶ内容だ。


 ブロンコスがFA補強に躍起になっているのには理由がある。まず、チーム内の主力選手でもFA資格を得た選手が多数おり、かなりの流出を覚悟しなければならないことだ。
 先発クラスの選手だけでもWRエリック・デッカー、RBノーション・モレノ、CBドミニク・ロジャース・クロマティ、クェンティン・ジャマー、DEロバート・エイヤーズ、LBウェズリー・ウッドヤードらが自由に他球団と交渉できる資格を有する。また、FA解禁に先立ってベテランCBチャンプ・ベイリーを解雇していたこともあり、セカンダリーを中心に補強が急務だ。


 これだけの戦力が失われれば目標であるスーパーボウル優勝が遠ざかってしまう。ドラフトで補強するという方法もあるが、それでは育成に時間がかかる。明らかにGMジョン・エルウェーは短期で結果を出すことのできる補強を目指している。
 それは、QBペイトン・マニングが現役でプレーできるうちにリーグ制覇を達成したいと考えているからだ。マニングも今年は38歳となり、本人がいくら否定しても、彼の選手生活が終盤を迎えていることは疑う余地がない。エルウェーはあと1、2年のうちにスーパーボウル優勝を果たせるチームを作ろうとしているのだ。


 しかし、この方策はもろ刃の剣だ。たしかにFA補強はほかのチームで実績を積んだ選手を引っ張ってくるから即戦力として期待できる。その反面で、年俸が高くなってチームの経営状況を逼迫する危険がある。
 NFLは選手に支払う年俸の総額に上限を設ける「サラリーキャップ」制度を採用している。今年の上限額は1億3300万ドルで、すべてのチームはこの範囲内で全選手の年俸を振り分けなければいけない。


 年俸の高い選手を多く獲得すれば、当然それだけサラリーキャップの上限まで余裕がなくなり、思うような選手補強ができなくなる。ブロンコスの場合はFA資格を持っている選手の慰留が難しくなるのだ。
 一般的にNFLの選手の年俸は契約年数のはじめほど安く、徐々に金額が上がっている傾向がある。同じ選手でも年数を経るごとにサラリーキャップに占める年俸の割合が増えていくことになる。そうなると、チームはサラリーキャップ超過を防ぐために高年俸の選手を解雇しなければならなくなる。


 こうした状態はしばしば主力選手の流出を招く。FA補強を優先するあまり、ドラフトで指名した選手の育成ができておらず、長期の低迷期に陥るケースも珍しくない。
 90年代初めの49ersやカウボーイズは積極的なFA戦略でチームを強くしたが、その後は主力選手の流出が相次ぎ、長期にわたってプレーオフから遠ざかるという憂き目を見た。今のブロンコスのやり方はこの2チームの失敗に通じるところがある。


 ブロンコスは2012年のマニング入団以来、FAを中心とした選手補強を行ってきた。ドラフト指名した選手に比べると契約ボーナスなどに金がかかる。そして、昨年のLBショーン・フィリップスやロジャース・クロマティ、ジャマーなどのように1年契約で獲得した選手は今年もFAとなって慰留には費用が必要だ。再契約を断念すれば戦力が低下する可能性がある。
 短期間で結果の期待できるのがFA補強の利点だが、長期的な展望を欠いた高額年俸の連発はチームに低迷期を招く危険をはらんでいる。

【写真】ペイトリオッツからブロンコスに移籍した長身CBタリブ=(AP=共同)