オールブラックスのSOダニエル・カーターは幼い頃、裏庭にラグビーボールを持ち込んでワールドカップ(W杯)優勝ごっこをして遊んでいたものだという。1987年、第1回W杯が自国ニュージーランドで開催された時、カーターは5歳。幼少期からW杯はカーターの人生の一部だった。33歳となった現在、決勝点となるPG、あるいはDGを決められる立場で31日のW杯決勝を迎えるが、子どもの頃のようにただ勝利を夢見ることはないという。

「W杯王者には過去何回かなっているよ、5〜6歳の時に裏庭でね。そういう想像をするのが好きだったんだ」。憧れの舞台を前に昔を懐かしんだが、想像の世界から現実に変わったいま、浮かれた気持ちはみじんもない。「今週はいつもと変わらないルーティーンでやる。完璧なルーティーンが大事なのは、何も変わらないというところ。キックだろうが、練習だろうが、W杯だろうが」と冷静に準備へ集中している。

カーターの構えは、そのままオールブラックスの構えと重なる。集中すべきはピッチ上の80分間のみ。それ以上、その先の目標は掲げず、キャリアの節目となる個人記録にも余分な思いは持ち込まない。

カーターは今大会を最後にオールブラックスの黒いジャージーを脱ぐとされる5人のうちの1人。111キャップを獲得し、テストマッチでの自己通算1579得点は史上最多、今回が4度目のW杯出場。そして初めて決勝の舞台に立つ。しかし、ここまでの道のりは決して平たんなものではなかった。

オールブラックスの前回大会優勝時は、1次リーグで足の付け根を痛め、チームが歓喜に沸く瞬間を観客席から見守った。フランスに敗れた2007年大会準々決勝もけがで途中退場しており、準決勝でオーストラリアに敗れた03年大会は最後までベンチを温める存在だった。

近年はけがとの戦いに苦しんだが、困難を乗り越え戻ってきた舞台だ。しかし、決勝はキャリア最高の瞬間にはならないと話す。「これまでW杯で落胆することが多かったから、(31日は)それを覆す絶好のチャンスになる。しかし、それを目指してきたことはない。これまでチームのために自分に何ができるかだけを考えてきた。自分が主役ではなく、2015年のオールブラックスが主役だ。私のモチベーションはチームメートのために試合で最高のプレーをすること」。自分の存在意義はチームのためにあると信じている。

スティーブ・ハンセン監督、チームメートもカーターにとってこの決勝がいかに重要な舞台かは分かりすぎるほど分かっている。そして、カーターの活躍が決勝の行方を左右することも。

ハンセン監督は「逆境を前に『もういい加減にしてくれ』と立ち去ることもできた。しかし彼はその道を選ばなかった。復活し、いいプレーをして終える。けがを乗り越え、今はいい状態だ」とカーターのプロ根性をたたえ、「ダン(カーターの愛称)のように100テストマッチをプレーしている選手にはキャリアを象徴する1試合なんてない。もうすべては歴史書に書かれている。ダンはこのジャージーに袖を通すことの意味を高めた。オールブラックスの一員としてできる最高のことだ」と最大級の賛辞を贈った。

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