ソチ五輪フィギュアスケート男子で、6位入賞した高橋大輔選手の演技は「奇跡のようだった」。同選手の専属トレーナーを務めた渡部文緒(のりお)さん(39)=大阪府高槻市=がこのほど帰国し、間近で支えたけがとの戦いを振り返った。高橋選手が「最後の舞台」と位置づける五輪のエキシビション(日本時間23日未明)を前に、「高橋大輔はこれだ、という滑りをしてほしい」と願っている。

 渡部さんはスポーツ現場で医科学サポートを行う「ブライトボディ」(本社・京都府宇治市)に2005年から勤務し、06年夏に高橋選手のトレーナーに。11年に独立し、現在は久御山高サッカー部や京都成章高ラグビー部も担当する。高橋選手の練習には毎日付き合い、体の動きをチェックしたり、体幹強化のトレーニングを指導。「家族よりも一緒にいる時間は長い」と話す。

 08年に右膝をけがした影響もあって高橋選手は左右の脚力が違い、ジャンプの安定が今シーズンの課題だった。さらに昨秋は右すねも負傷。痛みは引いたものの、ずっと違和感は消えなかった。

 「大輔は感覚の人間。もがき苦しんでいた。一定でない膝の感覚を(滑る時に)合わせるのがすごく難しかったはず」。ソチ入り後は人目に付かないところで患部を冷やしたという。

 ショートプログラム当日にメールを送った。神経が高ぶる演技前では初めてのことだった。約7年半、苦楽を共にしてきた自らの思いを率直に伝えた。それに応えるように、高橋選手はリンクで不調のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させた。「(浅田)真央ちゃんと同じように、メダルを取れなくても大輔は人に何かを感じさせる滑りができる数少ない選手。感動した」

 演技後、じっくりと2人で話はしていない。これまでは選手とトレーナーとして、なれ合いの関係にならないよう距離を保ってきた。「これで大輔とは一区切り。人間的にすごく好きなので、ずっと付き合いたい友人になるかな」。そう言ってほほ笑んだ。