目の前のライバルを羽生はいつも追い掛けてきた。今季なら、3年連続世界王者のチャン。シーズン前半のグランプリ(GP)シリーズは2戦続けて同じ試合に出場して連敗し「パトリック選手との差を、無意識に考えてしまっていた」。

 気にしすぎれば演技に集中できず、どこかがほころびる。反省から、3度目の対戦となった昨年12月のGPファイナルでは考え方を変えた。

 「相手がどうこうじゃないと気付いた。自分がどれだけ成長できるか」。考えるべきはあくまで自分。外ばかり気にしていた意識を内側に向けた結果が、SP、フリーともそのチャンを上回っての初優勝につながった。

 国内でも壁に挑んできた。バンクーバー五輪で日本男子初の銅メダルに輝いた高橋には「高橋先輩をはじめ、いろいろな方たちが道を開いてこられたから今がある」。敬意を持ちながら、昨季からは勝ったり負けたりの競り合いを続けてきた。

 10月のスケートカナダでは、優勝したチャンの得点が発表されると「(町田)樹君、ちょー強い」と口にした。今季急激に力を伸ばし、直前のスケートアメリカでチャンを上回る得点を出していた町田への対抗心をむき出しにした。

 小さなころから飛び抜けた才能を見せていたわけではなかった。いまや世界トップの技術を持つジャンプは「はっきり言って苦手だった」。

 同い年の選手では、今季はジュニアで競技している日野龍樹(中京大)や田中刑事(倉敷芸術科学大)が先に3回転ジャンプをマスター。小学生のとき、倉敷の全日本ノービス選手権でジャンプが決まらずに敗れ「号泣した」思い出が記憶に刻まれているという。

 「みんなが跳べているのに、なんで自分だけできないんだろうと」。先を越された悔しさをずっと原動力にしてきた。

 国内外の好敵手と切磋琢磨(せっさたくま)しながらレベルアップしてきた。「本当にライバルに恵まれてきた」と話す一方で、今は周りではなく自分の演技に集中している。首位に立ったSP後の会見では「いまのベストだけれど、まだまだできる。五輪だけでなく、先には世界選手権もあるので」。新しいライバルは自分の中にある理想の演技。追い求め、乗り越えようとする道は続く。 (海老名徳馬)