◎体調ベストも遠い「金」

 加藤にとっては1回目のスタートのつまずきが全てだった。刃の先がほんの少し氷に刺さるわずかなミス。でもそれが「致命的なミス」(加藤)になってしまう。2回目で34秒77とタイムを伸ばしたが、目指してきた金メダルはおろか、表彰台にも届かなかった。

 500メートルは刹那を極めたレースだ。幅わずか1ミリの刃に全体重を預けて生み出す推進力で、1000分の1秒を争う。

 五輪では1日に2回のレースで順位を競う。この70秒足らずに、加藤は4年間を懸けてきた。

 最も力を入れたのはレースに体調のピークを持ってくる「ピーキング」。自分なりの調整パターンを確立し、この日も「ほぼベストの状態」(加藤)で臨んだ。しかし、ミスで水泡に帰してしまった。

 メダルを独占したオランダ勢の強さは際立っていた。今村コーチは「国内の選考会では34秒3台を出した選手もいただけに、3人の強さは認識していた」という。日本としては34秒7台を2回そろえれば表彰台、34秒6台で回れれば金メダルもという目算だったが、甘かった。1位のミヘル・ムルダーは34秒6台をそろえ、2位の新鋭スメーキンスは34秒5台、3位のロナルド・ムルダーに至っては2回目に34秒49という、低地では異次元のタイムを出してきた。

 29歳。心身ともに競技人生のピークで迎えた3度目の五輪。金メダルの夢は、高く厚いオレンジの壁にいとも簡単にはね返された。「完全に負けた。今は頭がごちゃごちゃしてて何も考えられない」。視線はなかなか定まらなかった。(ソチ=安住健郎)

◎地元・山形300人が熱い声援/「4年間、全力」健闘たたえる

 ソチ冬季五輪スピードスケート男子500メートルで5位に入賞した加藤条治選手(29)の地元・山形市では10日夜、JR山形駅そばの霞城セントラルに約300人が集まり、力強い声援を送った。メダルには届かなかったが、温かな拍手で健闘をたたえた。

 人々は大型スクリーンの前で、懸命に応援。レースが進み加藤選手のメダル獲得の可能性がなくなると、会場は沈痛な雰囲気に。それでも、5位入賞が決まると、拍手が湧いた。

 加藤選手の山形中央高時代の恩師で、同校スケート部顧問の椿央(ひろし)さん(48)は「いい状態だったのでメダルを期待したが、オランダ勢が強かった。本人は悔しいだろう。一からやり直し、4年後に金メダルを取ってほしい」と語った。

 加藤選手が生まれ育った山形市岩波地区の住民でつくる「加藤条治選手を励ます会」の佐藤稔会長(77)は「よくやった。4年間、全力でがんばってきた。ご苦労さまと言いたい」とねぎらいの言葉を送った。

 県スケート連盟の奥山誠治会長(54)は「次へ向かって、新たなスタートを切ってくれると思う」とエールを送った。