【ソチ=報道部・木村敏郎】最初のつまずきが全てだった。トリノ、バンクーバー両大会に続く3度目の五輪。いずれも覇者としての実力を備え挑んだスピードスケート男子500メートル5位の加藤条治(日本電産サンキョー・山形中央高出)は「致命的なことをしてしまった」と1回目のミスを悔やんだ。

 狙ったレースで、最高のパフォーマンスを発揮するためのコンディション調整「ピーキング」が奏功し、現地入りしてからも「順調」と笑顔で繰り返した。体調不良でタイムトライアルを休むほどだったバンクーバー前とは打って変わり、氷上練習では他の外国勢と談笑する姿を見せるなど「ベストの状態でやってきた」。

 1回目。同走はバンクーバー金の牟太●(モ・テボム=韓国)。だが、予期せぬアクシデントが待っていた。スタートの瞬間、「(ブレードの)先が氷に刺さり、つまずいた」。たった一つのボタンの掛け違え。遅れを取り戻そうとはやる気持ちが力みを生み、ペースがつかめない。最初の100メートルこそ9秒66とわずかに牟をリードしたが、必要以上の消耗から本来の伸びを欠き、終盤にかわされた。

 1回目の終了時点で、首位のヤン・スメーケンス(オランダ)とは0秒37差。「致命的なタイム差だった。もう金メダルはないかな、と。あとは何とかメダルを取りに行った」

 日本の屋台骨として期待を背負い、苦悩し、極限まで追い込んで磨いた執念をわずか30数秒の最終走に懸けた。

 低い姿勢、左右へのしなやかで鋭い腕の振り―。加藤は猛然と疾走した。100メートルは9秒56。跳ぶようにコーナーを駆け、同走のドイツ選手を引き離す。最後は脚を投げ出すようにゴール。タイムは34秒77。この時点で2位となったが、後続の3選手が加藤の合計タイムを上回った。

 34秒6台を2本そろえたミヘル・ムルダー、1回目でただ一人34秒5台をたたき出したスメーケンスら表彰台はオランダ勢が独占した。加藤は「正直、接戦に持ち込めなかった」と悔しさをかみしめ、「ほぼベストの状態で挑んだつもりだった。それでも一歩届かなかった」と天を仰いだ。