2回の合計タイムによって争うスピードスケート男子500メートルで、1回目34秒96で5位の加藤条治(日本電産サンキョー)は2回目34秒77の合計1分9秒74で5位、1回目34秒79で3位の長島圭一郎(日本電産サンキョー、池田高出)は2回目35秒25の合計1分10秒04で6位だった。

 金メダルだけを狙い、逆転を狙った2回目。インスタートの長島は気合十分のタイミングで飛び出した。今季磨きを掛けた最初の100メートルだ。9秒58。1回目より0秒05遅れた。バックストレートに入っても力んだのか伸びを欠いた。

 結局、同走で1回目首位のスメーケンスにリードを許したままゴール。35秒25。加藤にも抜かれ、6位。「申し訳ないです」とうなだれた。

 それでも「世界一美しい」と称賛される滑りは健在だった。

 植え付けたのは十勝管内池田町の畑作農家、川添保徳さん(62)。小学校時代のスケート少年団の監督だ。

 「かっこよく滑ってこい。前で目立て。それが速く滑る秘訣(ひけつ)だ」。川添さんは、同級生の中でも背が小さかった長島に何度もそう言い聞かせた。

 小学生はシングルレース。十数人が一斉にスタートする。「後ろで滑ったら見えないだろ」と川添さんは説いた。筋力がない長島が集団に巻き込まれると転倒する恐れがあるからだった。

 「無駄な力を使わずに圧倒的に勝つ」。川添さんの言葉は、その後の長島に大きな影響を与えた。「見た目も格好良く滑りたいし、出る大会全て勝ちたい」。思考も滑りも、今の長島を形作る原形となった。

 ソチ五輪でもいつものように「かっこよく」滑ることはできた。でも、頂点を極めることはできなかった。リンクの魔物がバンクーバー五輪の銀メダリストに牙をむいた。(平田康人)<北海道新聞2月11日朝刊掲載>