西武学園文理高校出身で、ロンドンオリンピックの競歩の日本代表大利久美選手(27)=富士通陸上競技部=と、あさひ銀行(現・りそな銀行)陸上競技部の元選手で、ロンドンパラリンピック1500メートル走の日本代表選手のコーチを務める川越市の堤文子さん(40)。この2人を技術面や精神面で個別に指導してきた元中学校教諭で指圧師の武山正伸さん(63)=川越市仙波町=は今、「2人の努力が報われた」と最大限のエールを送る。  武山さんは教諭時代、陸上部の顧問を務めていたが、教え子らが五輪やパラリンピックに出場するのは初めて。武山さんは5日、応援のためロンドンに向けて出発する。  武山さんは青森県出身。大学卒業後の1971年、埼玉県教委に入庁。川越市や富士見市の市立中学校で体育教師を務めていた。95年ごろ、医者になろうと一念発起。学校を退職したが、間もなく脳梗塞を患って断念。その後、指圧師の専門学校に入り、約10年前に自宅を改装して指圧院を開業した。 ■出会いは陸上競技場  大利選手と出会ったのは指圧院開業後、間もない頃。教え子の指導で訪れた川越運動公園の陸上競技場。高校生だった大利選手はフィールドでうつむいて座っていた。悩みを抱えていると直感した武山さんは素性を明らかにして、「何かあったら連絡しなさい」と自宅のメモを渡した。  その夜、大利選手は母親と2人で自宅を訪れた。人間関係や伸びない記録に悩んでいた。武山さんは大利選手の目の輝きを見て「この子は必ず強くなる」と指導を決意。その後10年以上にわたり、競歩のポイントやさまざまな相談に応じて、大利選手の精神的な支えとなった。  昨年2月、大利選手は日本選手権で優勝。世界選手権への出場権を獲得した際、武山さんはゴール直後の大利選手と抱き合って喜んだ。神戸市で開かれた今年2月の日本選手権でも優勝。ロンドン五輪の代表選手に決まった大利選手はレース直後、マスコミに囲まれていた。  観戦後、新幹線で帰路に就いた武山さんは大利選手の代表決定を知らせる車内のテロップを見て、目頭を熱くした。 ■二人三脚でスランプ脱出  堤さんは川越市立南古谷中学校陸上部の教え子。「100メートルをやりたい」と入部したが、タイムの速い部員がいたため、中距離を勧めた。人一倍努力家で練習態度がまじめだった。800メートル走では県内の中学生記録を塗り替え、高校進学後は日本代表として世界選手権などに出場した。  実業団では、駅伝のエース区間を担当したが、けがやスランプを繰り返し、実績を残せなかった。武山さんは指圧師の学校に通学し、夜は都立高校の夜間教諭を務めていたころ。毎日早朝の2時間、母校の中学校で二人三脚で練習。堤さんは1年後、スランプを脱したという。  約6年前、現役を引退した堤さんは「これまでお世話になった人たちに恩返ししたい」と障害者選手のコーチに就任した。堤さんはコーチとして、ロンドンに向かう。  2人の晴れ舞台を前に武山さんはこう思う。「堤さんも大利さんも悩み苦しんだことは無駄ではなかった。教員時代は毎日、『あすなろ』という題名の学級通信を作っていた。努力すれば夢はかなうという教育方針は間違っていなかった。ロンドンに行って自分の目で確かめたい」