未曽有の被害を出した東日本大震災から1年4カ月余り。ロンドン五輪が始まった。「自分に何ができるのか」。震災後、アスリートたちは自問しながら被災地を訪ねて応援してきた。「逆に勇気をもらった」「私も頑張らなきゃ」。交流の中で新たな力を得た選手たち。子どもたちも触れ合った思い出を宝物のように大切にしながら、被災後の生活で前を向く。 「大変な災害があった日本に金メダルで元気を」。開会式で、誇らしげな表情で日本選手団の旗手を務めたレスリングの吉田沙保里選手(29)は度々こう言ってきた。 今年1月、吉田選手は岩手・宮古商高レスリング部の道場で、部員や地元クラブの小学生ら約40人を指導した。「友達や家族をなくした人もいる。笑顔を見せたら、いけないんじゃないか」。最初はどう接していいか分からなかった。 しかし、一緒に体を動かすうちに子どもたちの笑顔に逆に励まされ、気が付くと自分も笑っていた。「ずっと来たかった被災地に、ようやく来ることができた。心のつかえが取れた」と話した。 陸上ハンマー投げの室伏広治選手(37)は石巻市の子どもたちと交流を重ねている。昨年6月、門脇中を訪ね「一日体育教師」を務めた。その後、韓国での世界選手権で優勝し、生徒たちが「あきらめない」と寄せ書きした日の丸を競技場で広げた。今年6月、大阪市で開かれた日本選手権には卒業生を招待、高校に入って成長した姿に目を細めた。 「震災で人生観が変わった」と室伏選手。「自分だけのためにしてきた競技に、今は被災地から注目されているという“特別な力”が加わった」 五輪開会式には参加しなかったが、被災地からの応援に「言葉で表せないほど感謝している」との談話を出した。 仙台市出身で卓球の福原愛選手(23)=ANA、青森山田高出=は昨年5月、津波の被害を受けた仙台市東六郷小に卓球台やラケットを贈り、指導もした。今年5月には、五輪での活躍を願う同校の子どもたちが応援歌をつくり、全校児童で歌う姿を収めたDVDを送ってくれた。 福原選手は「もっと頑張らなきゃという気持ちになる」と喜んだ。 交流の記憶は子どもたちの胸にも刻まれている。宮古市の大槌さくらさん(10)は吉田選手にタックルのこつを尋ねたとき「頭を上げて横に押すんだよ」と実際に動作をしながら教えてくれたことが忘れられない。「もっと練習してもっと強くなって、オリンピックに行きたい」ときっぱり。 石巻市の滝雄大さん(16)は室伏選手の「練習すればきちんとできる」との言葉を支えに高校受験を乗り切り、サッカーに打ち込む。五輪はテレビで応援するつもりだ。 ロンドンから被災地へ。被災地からロンドンへ。その思いがつながる。