ロンドン五輪最大のスター、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が、大会前に「最も偉大な選手として名を残す」と宣言していた通りの爆走で「生きた伝説」になった。陸上男子100m決勝で圧倒的な速さと強さを見せつけ、1988年のカール・ルイス(米国)以来となる五輪2連覇。タイムこそ自分の持つ世界記録(9秒58)には及ばなかったが、前回自らが記録した五輪記録を上回る9秒63で稲妻のようにトラックを駆け抜けた。  ▽記録より勝つこと  前日の予選ではレースの大半で力を抜いていたが、この日の準決勝は慎重にスタートしながら持ち前の爆発力の一端をのぞかせ、終盤は流して9秒87の好タイムだった。仕上がりは上々の感じだったが、決勝はさすがに硬さが目立った。「無難なスタートが切れた」と振り返った反応時間は8人中5番目の0秒165。最大の鍵だった最初の関門を抜けた陽気なジャマイカンは、一気に加速して中盤でトップに立った。しかし、どこかぎこちなく、本来のダイナミックで流れるような動きではなかった。  奔放なタイプで、スタート前でさえおどけたポーズを見せるボルトだが、ジュニア時代からきっちり仕上げてメジャーイベントでは持てる力を発揮してきた。世界に衝撃を与えた昨年の世界選手権でのフライング失格はむしろ例外で、大舞台で結果を残すには不可欠の資質を持ち合わせている。「コーチからはスタートのことは心配しないで得意のレース終盤に集中しろと言われていた」という。  その言葉の通り、重圧をはねのけて若いチームメートのヨハン・ブレーク、復活した元五輪王者のジャスティン・ガトリン(米国)をぶっちぎってフィニッシュ。トラックに口づけし、得意の弓を引くポーズを取ると、国旗をまとっての陽気なビクトリーランで8万の大観衆の歓呼に応えた。「記録より勝つことが目的だった」の狙い通り納得のいくレースだった。  ▽連続3冠へ夢膨らむ  ボルトは生まれつき背骨がS字型に曲がっている脊柱側彎(そくわん)症の持病を持っている。そのため、骨盤の動きに影響が出て短距離では重要な太もも裏側の筋肉に負担がかかるのだという。スタートで大きな負荷がかかる100mではその傾向が強く、高いレベルのレースを重ねると大きな故障を引き起こす恐れがある。勝利とともに空前の9秒4台のタイムを期待されているボルトにとっては、爆弾を抱えてのレースだったのである。  病を克服するために徹底的な筋力強化を図り、もともと200mが専門だったボルトがいきなり100mの世界記録(9秒72)を樹立したのが2008年北京五輪前の5月。この専門外の種目の意外な新記録から、2カ月半後には衝撃的な五輪王者誕生へと続いていく。  一夜にして地球規模のスーパーヒーローになり、これまでのスプリンターのイメージを一新した。レゲエの神様、故ボブ・マーリーの娘(セデラさん)がデザインしたイエローとグリーンを基調にしたジャマイカ代表のユニホームがよく似合う。196㌢の超大型スプリンターには、4日後の200m決勝で夢の18秒台への期待も膨らんでくる。連続3冠の仕上げとなる400mリレーも決勝は11日。「この勝利はまだ伝説への第一歩にすぎない」。おどけた口ぶりでコメントしたボルトの五輪はまだ始まったばかりだ。 (共同通信スポーツ企画室長 船原勝英)