日本の男子柔道が7階級で一つも金メダルを獲得できなかった。1964年の東京大会で柔道が採用されて以来、出場した11大会で初めて味わう屈辱だった。  ▽強烈な自負心  東京大会以来、男子柔道が積み重ねた金メダルは26個。前回の北京大会まで日本選手団が獲得した総数123個の21パーセントを占める。これに女子を加えると35個となり、柔道全体では実に全体の28パーセントにもなる。  「柔道でメダルと言えば金しかない」。全日本柔道連盟会長で日本選手団の上村春樹団長の言葉である。自らも76年モントリオール大会の無差別級でチャンピオンの座に就いている。今回の惨めな結果で、そんな自負心も吹っ飛んでしまうようなダメージを受けたのではないか。  ▽正統派の衰退  しっかり組み、距離を置いて正対し1本を取る。日本の美しい柔道は、見る者の琴線にも訴えかける。だが、正統派は危機に瀕している。60キロ級の平岡拓晃、73キロ級の中矢力はいずれも決勝でロシア選手に屈した。奥襟や背中をがっちりつかんで相手の動きを封じ、強い腕力を生かして接近戦を挑む彼らの戦略に歯が立たなかったのだ。東京大会で世界に門戸を開放してから始まったパワーとの対決。歴史の必然とも言えるこの大きな流れに今大会も抗することができなかった。    ▽猛練習  手をこまねいてきたわけではない。2008年秋に就任した篠原信一監督の下、昨年は年間17回の強化合宿を繰り返した。北京前の10回、アテネ前の7回をはるかにしのぐ量だ。厳しく鍛え上げることで精神面を鍛える効果も狙ったのだろう。  しかし、この方針には反発や疑問の声が挙がっていたのも事実だ。「合宿で追い込まれて、技や対戦相手を研究する時間もない」「疲れは抜けず、けがを治す時間もない」。代表選手の悲鳴であり、出身母体のチームの指導者たちの嘆きだった。会場に姿を現した穴井隆将(100キロ級)のいつもとは違う顔つきを見て「コンディションが悪いのではないか。調整の失敗」と感じた強化委員もいた。  ▽再生への道  篠原監督はこの事態を「私の責任。特に選手に対し最も申し訳なく思う」と頭を下げた。全柔連を代表する立場で上村会長は「大変なことになった。もう少し金メダルは取れたと思う。これから検証する」と総括した。  選手たちの誇りの源である一方、重くのしかかっていた重圧。幸か不幸か、その金メダルの呪縛(じゅばく)からは解かれることになった。「世界の水準は横並び。自分の力を出し切れなければ勝てない」(上村会長)を基本的な見解として、再生、生き残りへむけて全柔連はどんな対策を講じていくか。人事問題などだけに歪曲(わいきょく)化せず、真正面から取り組んでほしい。 (文責 47NEWS 岡本彰)