五輪はメディアの発達とともに注目度を上げてきました。運営面での大きな変化は1984年ロサンゼルス五輪からの「大会の商業化」と、高騰を始めた「テレビマネー」の威力でしょう。開催国や開催都市の公費で開催されていた祭典に、民間資金が大幅に導入されるようになったのです。五輪ビジネスは拡大し、ますます華やかなイベントになっていきます。今回は五輪を支える「お金」について考えてみましょう。

▽協賛は1業種1社

ロサンゼルスで2度目の開催となった1984年夏の大会は異例でした。新しい競技場建設の大工事はありません。会場はほとんどが既存施設でした。開閉会式や陸上競技が行われた主会場は1932年のロサンゼルス大会でも使用された伝統あるスタジアム。サッカー会場にはアメリカンフットボールの競技場が転用されていました。選手村は大学施設で、水泳会場も南カリフォルニア大のプール。大会関係者を輸送するシャトルバスは、夏休み中のスクールバスでした。報道陣に用意されたバスにはエアコンも付いておらず、猛暑の中、記者たちは汗だくになって取材に回りました。

上空には大会スポンサーになったフィルムメーカーの大看板を付けた飛行船が期間中、ずっと浮かんでいました。競技場内の売店にはスポンサー企業のコーラ会社や、ハンバーガー会社の商品しか売っていません。お金を出してくれるスポンサー最優先と言わんばかりに、見やすい観客席は協賛企業の接待客で埋まっていました。

「税金を1セントも使わない」。これがロサンゼルス五輪組織委員会の合言葉でした。組織委会長だったピーター・ユベロス氏は民間資金だけで五輪を運営してみせると公約し、せっせと協賛金を集める一方で、開催経費の無駄を徹底的にそぎ落としました。

実業家として成功していたユベロス氏は、ユニークなスポンサー制度を編み出しました。各企業からまんべんなくお金を集めるのではなく、協賛できる企業は1業種につき1社のみ、という独占権付与方式です。企業側が公式スポンサーの権利争奪で同業他社と競り合うため、自然と高額になります。スポンサー料は最低でも1社400万㌦。当時の日本円にして8億円以上の金額でした。ユベロス氏は
五輪の魅力を売り物にして協賛企業を集めました。

大会後に大幅な黒字を出したロサンゼルス大会は「五輪はもうかる」との伝説をつくりました。このスポンサー制度は、その後、国際オリンピック委員会(IOC)にも導入され、開催国の五輪組織委にも継承されました。ただ、2020年東京五輪では同じ業種で複数の企業が国内スポンサーになることが特例として認められました。世界的な経済状況の変化とともに、今後の五輪協賛システムに新たな動きが生まれてくる可能性もあります。

▽「カネも、口も出す」

五輪を財政的に潤したもうひとつがテレビ放送権料です。テレビ中継は1960年のローマ大会から始まりました。まだ衛星中継がなかった時代に、大会が放映された国は世界のわずか21カ国で、放送権料は計120万㌦だったそうです。中継技術の進歩とともに、その後、五輪とテレビは蜜月時代を迎えます。大会の商業化が本格化したロサンゼルス五輪以降、米ネットワークの放送権料が高騰し、日本向けも含めた世界相場も上昇していきます。2012年ロンドン五輪で約220カ国・地域で中継された放送権料の総額は25億㌦を超えました。日本円に換算すると約3000億円もの巨大マネーです。

テレビ局との契約はIOCが担当します。放送権料やIOC独自のマーケティングで得た収入は、各五輪組織委に大会運営費として分配されるほか、各国の国内オリンピック委員会、各国際競技団体などにも配分されています。経済的に貧しい国の選手の五輪参加費や若手選手育英資金などにも充てられます。五輪が「お金」を生み出すことにより、より多くの国・地域の人々が五輪に参加できるようになり、スポーツの普及に寄与しているとIOCは説明しています。

財政的に自立することでオリンピック運動がどんな政治圧力にも揺るがず、常に自立できている、とも言われています。しかし「カネを出せば、口も出す」のが古今東西、変わらない流れです。特にテレビ局からの要求は少しずつ五輪を変化させてきました。

最も高い放送権料を支払う米ネットワークの要請により、人気競技の実施時間が米国時間の夜のゴールデンタイムに合わせて設定されるようになりました。IOCのサマランチ元会長時代には「テレビで見ておもしろい競技が五輪にはふさわしい」として、IOCの意向を受けてルールを変更する競技も続出しました。3時間以上の長時間試合はテレビに不向きと指摘され、バレーボールは試合時間を短縮する規則変更を行いました。射撃、アーチェリー、レスリングなども「分かりやすくする」ために試合方式を変えました。柔道のカラー柔道着導入もテレビ戦略の一環です。

テレビはすっかり五輪の主役になった観がありますが、テレビ側からは「もうこれ以上はカネを出せない」という悲鳴も出始めています。IOCは世界のだれもが五輪を視聴できるようにと、無料の地上波放送を義務づけています。テレビの方では、視聴料金を徴収できる有料のケーブルテレビなどにも放送媒体を拡大したい意向があるようです。テレビと五輪の関係も、曲がり角にきているようです。
(共同通信オリンピック・パラリンピック室 荻田則夫)

1988年ソウル五輪の陸上男子100m決勝は米国の夜に合わせ、現地の昼に行われた(共同)
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