9月3日、ヤクルトの山田哲人が国内フリーエージェント(FA)の権利を取得した。

出場登録日数が通算8年に達したもので、今オフには他球団へ移籍する権利が生まれる。

「素直にうれしいです。今はシーズン中なので、その時期になったらじっくり考えたいと思います」と当日にコメントしている。

山田と言えば日本を代表する二塁手にして俊足強打のスラッガーだ。

過去に打率3割、30本塁打、30盗塁以上を1シーズンで達成する「トリプルスリー」を3度記録。昨年は前年から続いていた盗塁の連続成功を38としてプロ野球記録を樹立した。

またオフの国際試合「プレミア12」では韓国との決勝戦で日本を優勝に導く3ランを放つなど、球界を代表するスター選手と言っても過言ではない。

そんな山田の去就については、昨年オフから大きな話題を呼んでいた。

契約更改の席で球団側は複数年契約を提示したが、これを断り年俸5億円(推定)の単年契約を選択したからだ。

さらにこの時点では本人の口から「FA宣言するかもしれないし、しないかもしれない」と意味深長な発言も飛び出している。

今年、西武から米大リーグのレッズに移籍した秋山翔吾も、前年の契約の時に複数年を蹴って単年としている。

逆にソフトバンクの柳田悠岐は5億7000万円の7年契約を結び「生涯ホークス」を宣言。つまり球団の提示を断り、単年の契約を結ぶ場合は他球団へ、移籍の意志ありと見るのが一般的だ。

そこで噂として飛び交っているのが巨人かソフトバンクへの移籍説。何せ山田の年俸は野手としては巨人の坂本勇人と並ぶ最高年俸。仮に獲得に乗り出す場合は、最低でも6億プラス複数年と球界関係者は推測する。

12球団の二塁手事情を見渡すと山田クラスの力量の持ち主は楽天の浅村栄斗くらいだ。巨人は4年目の吉川尚輝がレギュラーの座をつかみかけているが、毎年のように故障で戦列離脱しているのが気がかり。

選手層の厚さを誇るソフトバンクだが二塁は泣き所。こうしたチーム事情と巨額が動く「マネーゲーム」となった場合には、この両球団くらいしか手を上げられないのが実情である。

だが、ヤクルトとしても指をくわえて見ているつもりはない。衣笠剛球団社長が「当然引き留めにいきます」と語るように、早ければシーズン中にも残留交渉が行われると見られる。

チームは9月に入っても低空飛行が続いている。このままでは2年連続の最下位もあり得る。

高津臣吾新監督を迎えて浮上を狙った今季、開幕直後には首位に立つなど明るい話題もあったが、投手陣が弱すぎる。

加えて頼みの山田も7月にはコンディショニング不良で4年ぶりに1軍選手登録から抹消された。

若手の底上げも村上宗隆以外は進まず、数年先を見据えても山田に移籍されたらチーム崩壊が進むばかりだ。

メジャー球団も熱視線を送るほど急騰する山田人気だが、思わぬ敵が出現したと見る向きがある。それは「コロナ禍」である。

新型コロナウイルスの世界的感染拡大は、スポーツ界も直撃している。

プロ野球を例に挙げれば、開幕は6月に延期。通常143試合の日程は120試合に短縮されている。

加えて当初は無観客での開催が続きやっと上限5000人となり、まもなく球場収容人数の50%まで許可されそうだが、それでも営業、収益面から見れば大幅な赤字が必至だ。

親会社も例外ではない。巨人の母体である読売新聞社は、若者の活字離れにコロナ禍が直撃して収益は減っている。

ソフトバンク本社も、今年になって赤字決算を発表。その後、資産の売却など苦戦が続いている。

近年、球団経営は改善が進み親会社に頼らない独立採算でやりくりできてきたが、今年だけはどうにもならないのが実情だ。

こうした社会情勢が山田のFA移籍にも暗い影を落とすことは十分に考えられる。

「少年時代の山田は巨人ファンだった」「山田と高津監督は公私ともにいい関係だから、好成績を残してからと考えているはず」

既にさまざまな情報が飛び交っている。

ペナントレースもいよいよ白熱の終盤へ、と言いたいところだが、セ・リーグは巨人の独走状態。おまけに今季は3球団によるクライマックスシリーズもないから(パ・リーグは2チームで開催)敗者の冬は早い。ストーブリーグの主役はもちろん山田である。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。