新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国に出されている緊急事態宣言も一部、解除された。感染リスクをコントロールしながら生活する「新しい日常」を作り上げていく日々がスタートしている。スポーツに目を向けると8月10日に開幕予定だった全国高校野球選手権大会、いわゆる「夏の甲子園」も中止を決定した。スポーツ観戦が当たり前になるまでの道のりは遠そうだ。

そんな中、日本より一足先に「新しい日常」に踏み出した欧州連合(EU)諸国では、16日のドイツ・1部リーグ「ブンデスリーガ」を皮切りに各国のサッカーリーグが再始動している。無観客とはいえ公式試合を行ったことについてはドイツ国内でも賛否あるようだ。再開時期を模索している日本のJリーグやプロ野球にとっても参考となるだろう。

モータースポーツの世界でも同様の動きが出ている。佐藤琢磨が参戦するインディカー・シリーズは6月6日に開幕することを発表。F1もオーストリアGP(7月5日決勝)からのシーズン開始を目指している。国際自動車連盟(FIA)は「(開幕戦の)オーストラリアGPの時点とは状況が大きく変わっている。新型コロナウイルスに対する知見も深まっているので十分に対応できる」とコメント。チーム関係者もF1再開を願っている。

一方、レーススケジュールは変則的になりそうだ。まず、オーストリアのレッドブル・リンクで2戦、続けて英国のシルバーストーン・サーキットで2戦をいずれも2週連続で開催。その後、EU内でのレースが想定されているという。レッドブル・リンクとシルバーストーン・サーキットとは無観客でのレース開催で合意している。

ただし、現時点では不明な部分も多い。EU加盟国内でも移動と出入国に関する制限に違いがあるからだ。例えば、イタリアでは6月3日からEU諸国からの出入国を認める決定をした。一方、ドイツとオーストリアでは同15日からの限定的な解禁を目指している。何より、多くのF1チームが本拠地を置いている英国では入国者に対する2週間の自主待機がいまだ残ったままだ。ちなみに英国は今年1月31日にEUから離脱しているが、12月末までは自由に移動できる。

加えて、マシンの再テストも必要となる。2月にスペイン・バルセロナで合同テストを行った後は一切走行していないからだ。そこで考えられているのが、オーストリアGP後に全スタッフが「一緒に」イギリスへ移動してテストを1週間実施。その後、2週連続でレースを開くという案。加えて、レース後のテストも検討されている。

一緒に移動するのは、チーム外の人との接触機会を減らすことによる感染拡大防止を狙っている。そのため、同時開催される予定のF2を始めとする下位カテゴリーの関係者も団体移動するようにする。英国に居住していない人については検査を複数回することで自主待機を回避できないか同国政府と交渉している模様だ。

英政府は物流トラック運転手などについては自主待機を免除している。F1関係者もオーストリアGP後の入国時にこうした仕組みを利用しようとしている。しかし、同政府と合意に至らなかった場合、オーストリアGP後はドイツのホッケンハイムでレースを2週連続開催する「第2案」が用意されている。この場合、合同テストの場所も変更となることになるだろう。

現在も英政府とFIAの交渉は続いているが、その中身は伝わってこない。そのため、実際どのような形で今シーズンを始められるのかは今のところはっきりとしていない。加えて、ホンダの日本人スタッフはEU加盟国の関係者と同様の扱いとするのかやメディアの検疫はどうなるのか―などの詰めなければならない課題が山積している。

このように問題は残っている。だが、F1はシーズン開始に向けてかじを切った。日本でも関係者が知恵を絞り、全ての競技が行えるようにしてもらいたいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)