プロ野球阪神の藤浪晋太郎投手に災難が降りかかった。

3月26日、球団は藤浪投手が新型コロナウイルスを調べるPCR検査で陽性反応が出たと発表。翌27日にも伊藤隼太外野手、長坂拳弥捕手が同じく陽性であることを明らかにした。

3選手は直ちに大阪市内の病院に入院したが、これに伴い全選手、スタッフらも4月1日までの活動休止と自宅待機が通達された。

英国ではチャールス皇太子やジョンソン首相らが感染、米国ではMLBやNBAの人気選手も病魔と闘っている。

日本国内では日本サッカー協会の田嶋幸三会長も、検査の結果が陽性であったことを明らかにした。

世界中を恐怖と混乱に陥れているコロナウイルス禍だから、誰が感染してもおかしくはないが、ついに日本の野球界までがという思いは禁じ得ない。

藤浪投手らの感染症状は従来指摘されてきた発熱、せき、倦怠感などではなく味覚、嗅覚障害だという。日本国内では珍しいとされているが、欧米では早くから同様の感染例が指摘されていた。

「今後の警鐘や啓蒙になれば」とあえて実名報道を決断した藤浪投手に対しては早速、海の向こうから反応が寄せられる。

オフにはともにトレーニングするカブスのダルビッシュ有投手だ。

「嗅覚がおかしいってだけで名乗り出た藤浪投手はすごいと思う。(中略)関係者の感染リスクもかなり抑えられたはず」と自身のツイッターで発信すると、多くの賛同する声が寄せられたという。

もっとも、日頃からの行動にも自粛を呼びかけられている中で、阪神の選手7人と知人5人の12人が知人宅で会食した行為は褒められたものではない。

今回の感染リスク拡大に伴って、球界全体でも4月24日の開幕を基本線とする発表を行ったばかりだが、先行きはさらに不透明になり、さらなる開幕延期も現実味を帯びてきた。

それにしても、近年の藤浪投手には逆境が続いている。2016年頃から突如の制球難に陥りかつての輝きを失っていく。

17年4月のヤクルト戦で畠山和洋選手の肩口に死球を与えて乱闘、その年の2軍戦でも相手打者の頭部に死球で危険球退場。この頃から「抜け球」が多くなり、満足な投球ができない「イップス」説が囁かれる。

昨年の1軍登板は1試合のみで、プロ7年目にして初の未勝利に終わった。

昨秋からは元中日のエースだった山本昌広氏が臨時投手コーチとして指導。今春のキャンプでも投球の際に手首を立てたうえで、テークバックを小さくすることで制球力を向上させる新フォームに挑戦した。

こうした試行錯誤の末に迎えた実戦。オープン戦初登板となる広島戦では、2回を被安打3の3失点とほろ苦い投球となったが、続くヤクルト戦では4回無失点と収穫を手にした。

首脳陣も藤浪投手の完全復活を心待ちにしている。最速160キロに達する快速球に140キロ台のスライダー、フォークボール。15年には14勝を挙げて、そのうち7完投4完封に221奪三振でタイトルも手に入れている。

文句なしに素材は超一級品。チームの浮沈の鍵を握る男と言っても過言ではない。

今季の現状は1軍、2軍の当落線上。良かったり悪かったりの投球内容ではまだ矢野燿大監督の絶対的な信頼を勝ち取るところまではいっていない。それだけに、開幕まで1カ月を切った段階でのコロナウイルス感染は痛い。

どんなアスリートでも、一度ピークを迎えた調整を解いた場合、再度ピークに持っていくには一定の時間と鍛錬を必要とする。まして、病気で戦列離脱の場合はさらに困難を極める。

大阪桐蔭高時代は春夏全国優勝を勝ち取り、ドラフト1位で入団直後から輝きを放った、まさに甲子園の申し子。

この3年間のスランプからようやく抜け出して光の見え出した矢先のウイルス感染は不運としか言いようがない。当然、精神的な焦りや動揺もあるだろう。

しかし、ここはまず体力の回復に全力を尽くして、先発投手としてのスタートラインに戻ることが先決だ。

プロの世界、どん底を味わった者は這い上がるしかない。度重なる試練を乗り越えてこそ、真のエース復活が証明される。「負けるな晋太郎!」―。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。