初めて足を踏み入れた新国立競技場の景色が珍しかったのか、それともクラブ史上初のタイトルを獲得した天皇杯王者、J1神戸の笑顔が初々しかったのか…。元日の印象が強く残っているだけに、わくわくするはずの新シーズン到来にも「ちょっと早過ぎないか」という思ってしまう。

今年は東京五輪での中断が入ることを考慮して、Jリーグも例年より少し早く始まる。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)も繰り上がり、1月28日にはFC東京と鹿島が本選出場を懸けてACLのプレーオフに臨んだ。FC東京はフィリピンのセレス・ネグロスを2―0で下したものの、鹿島はオーストラリアのメルボルン・ビクトリーに0―1で敗れてしまった。ACLの予備予選でJリーグ勢が敗れたのは、初めてだという。

鹿島が始動したのは天皇杯決勝から1週間後の1月8日。ただ、参加したのは移籍組など新加入選手が中心だった。Jリーグの統一契約書に、最低でも2週間のシーズンオフを取らなければいけないとの条項があるためだ。同10日に始まった宮崎キャンプにも主力組は途中からの合流となった。

まったくの準備不足に加え、新監督に迎えたばかりのチームがまともなサッカーをできるはずはない。そう思っていたが、想像以上に楽しめた。

鹿島はメルボルンV戦に6人の新加入メンバーを先発させたが、チーム組織は十分に機能していた。昨年との最大の違いが、サイドバック(SB)が攻撃参加する回数。この試合ではともに新加入の永戸勝也を左に、広瀬陸斗が右に起用した。このサイドが高い位置を取ることで、攻撃に厚みが出る。

SBの攻撃参加を可能にしているのが、2人いるボランチの役割分担だ。攻撃時には1人がセンターバックの中央に降りて3バックの形を作り、両SBをウイングの位置に押し上げる。これはブラジル代表が4度目の世界制覇を成し遂げた1994年ワールドカップ(W杯)アメリカ大会で採用した戦術と同じ。この時は、ドゥンガが攻撃的に、マウロ・シルバが最終ラインに下がることで、SBのブランコとジョルジーニョがウイングのようにプレーできた。

鹿島はJリーグ開幕時からブラジル路線を貫き、基本的に4バックを採用してきた。とはいえ、「94年型ブラジル」のシステムを導入した記憶にない。新監督のザーゴは攻撃的なサッカーを指向する共感が持てる。メルボルンV戦で記録した枠内シュート数は13対4。この数字が示す通り、内容では圧倒していた。不運だったのは、この日に限って相手GKが神がかっていると思えるほどのセーブを見せたことだ。

アジア制覇の目標は早々についえてしまった。しかし、悲観することはない。ここまでの仕上がりは上出来。ACLで強いられる海外遠征による負担もなくなったことで、国内の戦いに集中できるからだ。昨季J1で12得点のセルジーニョが抜けた穴は確かに大きい。それでも、新戦力がそれを補うことができれば強い鹿島が戻ってくる可能性は高い。

勝ち続けることは難しい。昨シーズン4位に終わった川崎を見ると、よく分かる。2017、18年とリーグ2連覇を飾ったチームはシーズン通じて「勢い」に欠ける戦いをしていると感じた。

勢いの源は、18年シーズン後に退団した右SBのエウシーニョだった。SBにもかかわらず、予測不能のプレーで劇的なゴールを決めてしまう。このキープレーヤーを失った穴は大きかった。3連覇を逃した原因を考えれば、攻撃の軸と目されたレアンドロ・ダミアンが思うようにゴールを挙げられなかった以上に、強力な武器となっていた右サイドを埋められなかったことが大きいのではないだろうか。

今シーズンはそのポジションにジオゴ・マテウスを補強した。新しいブラジル人がどのような活躍を見せるのかに、チームの浮沈が左右されるだろう。DF奈良竜樹と「シュートマスター」阿部浩之が去ったことは残念だが、大学屈指のアタッカーである旗手怜央と三笘薫が新たに加わった。即戦力と目される若手がチームにかみ合えば、リーグ王者に返り咲くことも十分ありうる。

優勝した横浜Mと2位のFC東京も忘れてはいけない。中でも、注目はアダイウトンが加入したFC東京。19年夏に久保建英が移籍した後は攻撃面で見劣りしただけに、5季在籍した磐田で圧倒的な存在感を見せたアタッカーに寄せられる期待は大きい。

昨シーズンは、超攻撃サッカーの横浜Mによってリーグが大いに湧いた。今季も、攻撃的なチームが魅力的な戦いをして、私たちを楽しませてほしい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。