8月23日。世界に愛されたスペインの名ストライカーが、18年のプロサッカー人生に幕を下ろした。

J1鳥栖のFWフェルナンドトーレスは、本拠地の駅前不動産スタジアムで行われた第24節の神戸戦でフル出場し、現役を引退した。

最後の1年を過ごした日本で見せたのは「神の子」とたたえられながらも、ひた向きにサッカーと向き合ってきた姿だった。

2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会優勝などの輝かしい実績と、端正な顔立ちを兼ね備えた世界的スターが、鳥栖にやってきたのは昨年7月だった。

神戸のようなスター選手が集まるビッグクラブではなく、当時J1で下位に低迷していた地方クラブへの加入は誰もが驚いたが、苦境に立たされていたクラブのために献身的にプレーした。

日本での7ゴールで忘れられないものが三つある。

一つは昨年11月24日の横浜Mとのホーム最終戦で、1―1の後半33分に決めた勝ち越しゴール。本人も「日本で最も印象深い」と話す右脚のシュートで、スタジアムが揺れた感覚は昨日のことのように覚えている。

それまで15試合出場2得点の不振の中で生まれたゴールの裏には、フィッカデンティ監督の契約解除に伴い、残り5試合を指揮することになった金明輝監督の支えもあった。

最終節までの約7週間、指揮官は週2回ほど練習前に約10分、映像などを用いて戦術や試合中の動きについて説明する時間を設けた。

「神の子」は熱心に耳を傾け、徐々に調子を取り戻したと金監督は振り返る。

このゴールがそのまま決勝点となり、J1残留を確実にする救世主となった。しかし本人は「チームが一丸となって戦えたことが、去年残留できた大きな要因」と、至って謙虚だ。

残りは今年6月30日、現役引退を表明後初のホームでの清水戦で決めた2ゴールだ。

11試合出場無得点で7試合ぶりに先発したが前半16分、20分と立て続けに頭で決め、それまで3連敗していたチームを勝利に導いた。

「プレーも私生活も男前」と語ったのは、スペイン語を話せたことで親交が深かった元同僚の加藤恒平だ。

特に感銘を受けたのは試合までの準備過程。練習前のエクササイズ、練習後の体のケアは欠かさず「やるべきことを怠らない。こんなに真面目なのか」と驚いた。

困難な状況でもそれは変わらず、ゴールを決めるべき場面で決めてきた姿はプロの鑑だ。

清水戦後、記者に現役続行の意思を問われたフェルナンドトーレスは「間違いない」と笑った後「まだできるという感覚の中で(ピッチを)去りたい」と静かに続けた。

スペイン代表として110試合で38得点した誇りと、負けず嫌いな彼の意地のようなものを感じた。

現役最後の試合は無得点に終わったが、最後まで諦めずゴールへ向かった。

試合終了直後はすがすがしい表情だったが、引退セレモニーで10代からの親友イニエスタ、スペイン代表の盟友ビジャと熱い抱擁を交わした際は「泣きそうになった」と感傷に浸った。

鳥栖のアドバイザーとしてセカンドキャリアの一歩を踏み出す。

指導者、経営者…将来どのようにサッカーと関わっていくのか、世界中が注目する。

「いずれにしてもサッカーには携わりたい。サッカーは僕の人生だから」

鍋田 実希(なべた・みき)プロフィル

2015年に共同通信入社。札幌支社編集部での勤務を経て16年5月に本社運動部へ。同12月から福岡支社運動部で陸上、サッカー、高校野球、パラスポーツなどを担当。東京都出身。