「記録… それはいつもはかない。一つの記録は一瞬ののちに破られる運命を自ら持っている」

何ともドラマチックなこの言葉を見て、懐かしく感じられる方もいらっしゃるのではないだろうか?

これは、1975年から85年に日本テレビ系列で放映されていた「びっくり日本新記録」というスポーツバラエティー番組を締めくくるナレーションの冒頭で語られる言葉だ。現在、40代以上の方なら記憶に残っているかもしれない。

6月30日F1第9戦オーストリアGPで、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが今季初優勝を果たした。ホンダとしては2006年ハンガリーGP以来、13年ぶりとなる記念すべき勝利に日本だけでなく世界が注目した。しかし、ホンダの一勝は別の意味を持っていた。

メルセデスが続けていた開幕戦からの連勝を8で止めたのだ。今季のメルセデスは例年にましてマシンの完成度が高く、ライバルにつけいる隙すら感じさせない圧倒的な強さを見せつけている。それゆえ、1998年にマクラーレン・ホンダが記録した「開幕戦からの11連勝」を抜くのではないかと思われていたが、皮肉にもホンダのパワーユニット(PU)を積むレッドブルによって阻まれることになった。

とはいえ、14日に決勝を行った第10戦イギリスGPでメルセデスのルイス・ハミルトンが6度目の母国GP勝利を果たしたことで、メルセデスはシーズン9勝目を上げた。88年シーズンのマクラーレン・ホンダは全16戦で15勝を記録したが、今季は21戦を開催する。このままの強さを維持し続けると、かなりの確率でシーズン最多勝利の新記録を打ち立てそうだ。

「記録は常に破られるためにある」。という言葉はよく聞く。90年代のF1ファンでアイルトン・セナのポールポジション(PP)記録「65」が抜かれることを予想できた人はほぼいなかっただろう。だが、2006年第4戦サンマリノGPでミハエル・シューマッハーがこれを更新した。シューマッハーは記録を「68」まで伸ばした。

そして、2000年代にシューマッハーが最多勝利記録「91」やワールドチャンピオン回数「7」を次々と打ち立てると、それを塗り替えるものなどいないと誰もが思った。

しかし、フェルスタッペンやフェラーリのシャルル・ルクレールといった新時代の若手ドライバーが台頭してくると、新たな記録が生まれる瞬間を誰もが想像し、期待する。少なくとも、19年シーズンのF1では、そうした新たな力とともに記録更新への期待が高まっていることをひしと感じる。例えば、今回のイギリスGP勝利で、通算80勝目を上げたハミルトン。シューマッハーの通算勝利数は、ハミルトンの視野に完全に入っているだろう。今季はまだ残り11戦を残している。つまり、計算上では残りのレースをすべて制するとシューマッハーの記録に並ぶことになる。少なくとも、現在の強さをメルセデスが保持している限り、来シーズンには新記録誕生が現実のものとなるに違いない。

イギリスGPで表彰台こそ逃したものの、ホンダ陣営は急速に、そして確実に成長していることを改めて証明してくれた。残り15周、3番手まで順位を上げたフェルスタッペンだったが、ターン15いわゆる「ストウ・コーナー」でフェラーリのセバスチャン・フェテルに追突。5位でレースを終えることになった。それでも、同僚のピエール・ガスリーが今季自身最高位となる4位に食い込むなど健闘した。

現在のレッドブル・ホンダは確実にフェラーリと肩を並べたといえる。そのポテンシャルを実際に感じ取ったからこそ、4度の年間王者に輝いた実力者・フェテルらしからぬ、追突を誘発させたのだろう。相手の焦りを引き出せればその力は本物だ。次は、いよいよ王者メルセデスに対抗する力を目指してもらいたいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)