サッカー観戦には何と不向きな構造なのだろうか―。横浜Mの本拠・日産スタジアムに足を踏み入れると、毎回こんなことを思う。スタンドの傾斜が緩いことに加え、陸上のトラックがあるため、観客席からゴールまでの距離がとにかく遠い。2002年に開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)の決勝が行われた会場ではあるが、そのありがたみを全く感じられない。いわゆる、時代遅れの建物なのだ。

7月13日、ナイターで行われた横浜Mと浦和の試合は特に見づらかった。雨でぬれたトラックに照明が反射してしまうからだ。そのような中、座っていた席から遠いゴールでその事件は起きた。

ゴールか、オフサイドかが問題となっているのだろう。両チームの選手がレフェリーに詰め寄っている。そして、そのまま約8分もの間、試合が止まってしまった。その間に一度は認められた横浜Mのゴールが一転、浦和の間接FKに変わった。「オフサイドなのか」。そう思ったのもつかの間、ボールがセンターサークルに置かれる。結果的には、横浜Mのゴールが認められた。「ゴール」が「オフサイド」に。そして、また「ゴール」に。判定が2度も変わったことになる。

判定が二転三転したとしても、観客は何が起きたか分からない。大相撲のように土俵下にいる親方がマイクで公式見解を示してくれればいいのだが、サッカーの場合は何が起こったかについての説明がないからだ。結果として、観客は完全に置き去りにされた状況となった。

問題の場面は後半14分のプレーだった。帰宅して映像を確認したから分かったのだが、横浜Mは遠藤渓太がエジカルジュニオをポストに使い、ワンツーで左サイドを突破。ペナルティーエリアに侵入して右足シュートを放った。このボールが横浜Mの仲川輝人に当たってゴールに入る。ところが、松尾一主審と田尻智計副審が当たったか否かを自身の目で確認できなかった。そのことが、問題をややこしくした。仲川に当たったことが確認できればオフサイドなのだが、同じタイミングで浦和のDF宇賀神友弥も戻ってきている。仲川のプレーが宇賀神のプレーに影響を与えず、宇賀神がボールを触っていればオウンゴールとなるので得点は認められる。

ただ、映像を見る限り主審も副審も、立っている位置からボールを見ることは不可能だろう。完全に死角になっているからだ。

ボールがゴールに転がり込んだ瞬間、田尻副審はオフサイドの旗も挙げていなければ、得点のジェスチャーもしていない。判断ができなかったので松尾主審の情報を得ようとしたと思われる。だが、松尾主審にも見えていなかったことで混乱が広がった。

レフェリーやマッチコミッショナーから話は聞けないので、ここからは推測になる。了解いただきたい。

おそらく審判団は同時進行で公式記録を更新している運営側に、得点者について確認したはずだ。運営は映像で確認しているからだ。そこで最後にボールを触ったのが、仲川であるとの情報を得たのだろう。

「僕の感覚だと、あの(遠藤の)シュートに対してあそこに人がいるというのはオフサイドかなと思いました」

浦和のGK西川周作の意見は田尻副審にも伝えられていた。そして、仲川がボールを触った場合は、田尻副審もオフサイドだとの認識を持っていた。だから、一度は松尾主審によって浦和のゴールエリアが指さされたのだ。オフサイドによる浦和の間接FKとして試合が再開されようとした。

しかし、それが再度翻って、仲川の得点になったのは「大人の事情」だろう。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が採用されていれば、映像の確認で判定を変えることは何の問題もない。ただ、VARを導入していない現在のJリーグの競技規則では、レフェリーが第三者の情報を得て判定を下すことはできない。第4の審判員が映像を見ることすら認められない。浦和の間接FKを指示した後、はたとこの競技規則を思い出して、仲川がオフサイドであることは分かっているのに、ゴールを認めるしかない状況に追い込まれてしまったのではないか。

VARが普及し始めたこともあって、判定に厳密さと正確さを求める風潮が高まっている。だが、選手の話を聞いていると、ほぼ全員の選手が判定にミスはつきものだと許容している。一応、抗議はしてみるが、それが覆らないものだという環境で育ってきているからだ。

それなのに、大きな問題になったのは、松尾主審が毅然(きぜん)とした態度で、ゴールなりオフサイドの判定を下さなかったからだろう。より正確な情報を得るための行為が、逆に事態を悪い方にこじらせてしまった。その意味において、今回の審判団に反省すべき点は確かにある。それでも、個人的にはそこまで責められない気もする。巡り合わせが悪かったと思ってしまう。VARを導入すれば、このような間違いも起こらない。

後半41分のPKも含め、浦和にすれば不運が重なった試合だった。しかし、内容を振り返ると、横浜Mが圧倒した3―1という結果自体は妥当なところだ。

前半38分に今シーズン出場18試合目にして初ゴールを決めた遠藤は、2点目を巡る騒動に対しこう語っていた。

「僕が決め切れていれば、ああやって二転三転することはなかった」

ちなみに仲川に当たってゴールに転がり込んだのは、遠藤によるとクロスではなくシュートだそうだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。