話はいささか旧聞となるが、6月29、30日(現地時間)にメジャーリーグ(MLB)は画期的な事業を行った。ロンドンでの興行である。

今春には日本でマリナーズ対アスレチックス戦を開催、イチロー選手の引退もあって大変な盛り上がりを見せた。

しかし、野球不毛の地と言われる欧州での開催は史上初。その成り行きが注目されたが、2日間で11万8718人の大観衆を集めてスタンドには英王室のヘンリー王子とメーガン妃も駆けつけるなど盛況で、それなりの成功を収めたようだ。

「それなり」と書いたのにはわけがある。

MLBでも伝統と人気を誇るレッドソックスとヤンキースの注目カード。しかし、内容を検証すると必ずしもヨーロッパのファンを満足させるものとは言い難い。

まず、試合時間。第1戦は乱打戦の末に17対13でヤンキースが勝利をおさめたが、4時間42分もかかっている。

続く第2戦も同じく4時間超え、結果は12対8でヤンキースが連勝した。

ご存知の通り、英国での人気スポーツと言えばサッカーやラグビーである。試合時間が決まっているこうした競技に比べていかにも長すぎる。

加えて球場が狭いから本塁打が乱れ飛ぶ、このため投手陣の交代が頻繁に行われるために間延びする。

ど派手なゲームも一方では野球というスポーツの問題点が露呈されたことも指摘しなければならない。

ちなみに、球場に駆けつけたファンの半分近くは駐英の米国人と海外からの観戦ツアーだったとか。本当にヨーロッパの地に野球が理解されて根ざすには、まだ時間が必要のようだ。

MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは、今回のロンドン興行の意味合いを「欧州ファン開拓のため、ベースボールの醍醐味を伝える」と説明した。過去にメキシコ、日本、プエルトリコ、オーストラリアで公式戦を開催してきたが欧州は初。そこにMLBの壮大な世界戦略がある。

野球というスポーツをビジネスとして捉えたとき大きな収入源は二つある。

一つは入場料収入と球場内や駐車場など関連施設収入。もう一つはテレビなどの放映権とグッズによる収入だ。

前者は球場に来てもらわなければ稼ぎにならないが、後者のマーケットは無限大、世界中がターゲットになる。

近年、米国内の観客動員は減少傾向にあり、今後大きな収益を上げるためには世界に目を向けなければならない。

大陸間を横断する今回のイベントはスケールの点でも半端ではなかった。

元々はロンドンのオリンピックスタジアムを野球場に改修するため人工芝はフランスから運び、グラウンド用の土は米ウィスコンシン州から、フェンスの緩衝材はカナダからとまさにワールドワイド。

巨額な出費はまだある。MLBと選手間には海外遠征する際の選手の補償が定められており、今回は1選手につき6万ドル、総額は約300万ドルに達するという。

これに事前の広告費などを加えたら、とても収支が黒字とは思えないが、関係者の話を総合するとほぼトントンだったとか。

これを埋めたのが放映権料とグッズ類の収入だ。野球の魅力が欧州で認知されれば、広告などでヨーロッパのスポンサーの参入も見込まれる。

既に英国ではMLB関連のアパレル購入者が500万人いると言われている。これらのビジネスチャンスがさらに拡大すれば収入は莫大なものとなる。

来年もカブス対カージナルスの英国開催が決まっている。

米国の人気スポーツであるアメリカンフットボール(NFL)は、MLBに先駆けてロンドンでの興行を続けている。

MLBが五輪に消極的なことは知られている。大事なシーズン中にゲーム開催ができなければ大幅な収益減となるからだ。

それに代わるビッグイベントとして位置づけるのがワールド・ベースボール・クラシック(WBC)であり、世界戦略である。

何やら「アメリカ・ファースト」の感もないではないが、日本球界にもこれくらいスケールの大きな発想が求められる時代に来ている。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。