戦い方をもっと工夫し、もう少しだけ運に恵まれたら、日本代表はまだこの舞台にいられたかもしれない。そう思うと、歯がみしてしまう。「サムライブルー」が招待された南米選手権は、「南米選手権」という名前にかなった姿に戻った。そして、なでしこジャパンが参加していた女子のワールドカップ(W杯)はいつの間にか「欧米選手権」になっていた。国際大会に自分の思いを重ねられるチームがいないのは、何とも寂しいものだ。当然ながら、テレビ観戦にも気合が入らない。

視線を国内に戻すと、J1リーグ戦の折り返しにあたる17節が行われた6月29日には好カードが組まれていた。首位のFC東京と2位横浜Mが直接対決したのだ。横浜Mが勝てば、順位が入れ替わる可能性のある一戦だった。

首位とはいえ、FC東京はリーグ戦では2連敗中と調子を落としていた。南米選手権を戦った日本代表に久保建英が招集されて以来、2試合ともにゴールを奪うことができていなかった。その事実は、攻撃における久保の存在の大きさを図らずも浮き立たせる形となっていた。長谷川健太監督も「タケフサがいなくなってタメが作れる選手がいなくなった。前の2人に絡める選手がいなくなった」とそれを認めた。攻撃のパターンは確実に減少したといえる。

それでもリーグ戦折り返しまで首位を保つというのは、幸運や勢いだけでできるものだはない。形にはまったときには、その特徴を最大限に発揮できる。横浜M戦は、そのようなFC東京の強みが出た試合だった。

永井謙佑、ディエゴオリベイラ。2トップに“駿馬(しゅんめ)"が並ぶFC東京は、前方にスペースがあれば野生馬が荒野を疾走するような迫力ある攻撃を見せる。そう、カウンターだ。長谷川監督はこの言葉を嫌い「ファストブレイク」の表現を使うが、この攻め方を最も効率的に使うチームだ。

前半15分、横浜Mは右サイドの仲川輝人のクロスを、マルコスジュニオールが決めて先制点を奪う。FC東京から見ると当然、悪い流れだ。しかし、その時間帯が長く続かなかったのが幸運だった。

同点ゴールが決まったのは失点から2分後の前半17分、久保の穴を埋めたナ・サンホだ。今季加入した韓国代表は練習からシュートをワンテンポ早く打つことを心がけているという。その右足シュートは、横浜MのGK朴一圭の正面を突いたが、朴はこれを後逸。ナ・サンホが「運も味方につけた」という同点ゴールが決まった。

スコアが振り出しに戻ったということは、FC東京にとっては攻めやすい形ができたということを意味している。勝ち越し点を狙うためにハイラインを敷く横浜Mは、「自由過ぎる」両サイドバックの和田拓也とティーラトンが前線に張り出し、最終ラインには畠中槙之輔とチアゴマルチンスの2人を残すばかり。FC東京にすれば、目の前に広大なスペースがポッカリと空いているのだ。

陸上の日本選手権に出てもらいたい―。そう思わせるほどのスピードの持ち主である永井にとっては文字通り「走り放題」だ。前半38分、高萩洋次郎がスペースに出したパスで抜け出すと、絶妙なトラップでボールをコントロールした。「GKが出てきたんで、下はちょっと通らないかなと思って」と冷静な判断。GK朴の頭上を抜くループシュートで勝ち越し点を奪った。

後半に入っても“駿馬"の爆走は収まらない。後半10分にはペナルティーエリア内左を突破してゴールライン際からファーポスト際に浮き球のクロス。ディエゴオリベイラのヘディングシュートをお膳立てした。さらに後半17分には小川諒也のスルーパスを受けて、GKと1対1になる。一度はシュートがブロックされるも、こぼれ球を再びディエゴ・オリベイラが決めてリードを広げる4点目を奪った。ちなみに9ゴールで得点王争いトップタイのディエゴ・オリベイラは、8試合ぶりと久々のゴールだった。

後半38分に仲川が2―4となるゴールを決めるなど、横浜Mは終盤に追い上げを見せた。後半44分には、FC東京の室屋成がハンドを犯したように見えた。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)があれば確実にPKと判定されたはずだが、これが見逃されたのは横浜Mにとって不運だった。これが決まっていればアディショナルタイムが5分あったので、結末は分からなかった。

それでもFC東京は勝ちにふさわしい内容の試合を演じた。4点を奪えば、誰も文句は言わないだろう。その逆転勝ちの最大の功労者となった永井は試合後のインタビューであえてもう一人のヒーローの名を挙げた。

「サンホの1点目が大きかったと個人的には思っています。そこですぐに追いついたから相手のリズムにならず、こっちの良さがより出せた」

この言葉を聞いて、サッカーとは改めて流れが大切だと分かった。相手との組み合わせの相性で展開が大きく変わってしまうのだ。やはり奥が深い。

試合後、両チームに在籍し、世界的強豪のレアル・マドリード(スペイン)への移籍が決まった久保を送る壮行セレモニーが行われた。ぜひ成功してほしいものだ。それにしてもあの純白のシャツは、「エル・ブランコ(白い巨人)」の異名を持つレアルを意識したものだったのだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。