腰の違和感で戦列を離れていた巨人のエース菅野智之が帰ってきた。

6月9日の交流戦、ロッテ相手に久々の1軍マウンドで6回を2失点とまずまずの投球で今季の6勝目。この時点では20日間近いブランクがありながらハーラートップタイなのだから、さすがは菅野とも言えよう。

しかし、これで完全復調と断定するには疑問符が付くのも事実だ。

菅野と言えば球界の絶対エース。昨年は最多勝や最優秀防御率などのタイトルを総なめ。投手では最高の勲章と言われる沢村賞を2年連続で受賞している。

例年なら勝ち星ばかりか、投球内容でも他を圧倒しているのが当たり前。それが今年は防御率も6月12日現在(以下同じ)で4・22はリーグ10位と低迷している。

中でも注目すべきは被本塁打14本の多さである。過去3年の同項目を調べてみると、2016年から昨年まで12、10、14本がシーズントータルの成績。つまり、今年はすでに昨年1年分の本塁打を被弾していることになる。

もちろん、その原因の多くは腰の違和感にあったことは間違いない。

1軍登録を抹消される直前の阪神戦では6回途中に降板するまでに4本のアーチを含む10失点KOの大乱調、自己ワーストの惨状をさらした。

腰痛をかばいながら投げるから重心は沈み込んでいかない。いわゆる、上半身主体の投球には球威もなく、エースの姿がそこにはなかった。

「20勝と3年連続の沢村賞」を今季の目標に掲げた。近年、自身の成績は良くてもチームは広島の後塵を拝し、優勝に手が届かない。もどかしい思いは、さらなる高みに上り詰めるしかないと菅野自身を追い詰めていった、と言えば言い過ぎだろうか。

そこへ、叔父にあたる原辰徳監督の復帰。オフの契約更改では球界最高となる推定6億5000万円への昇給。張り切りすぎる要因は山ほどあった。

元々、人一倍の負けず嫌いで努力家。投手としての究極の目標を問われると「勝ち星で一番、防御率で一番、球威もコントロールも一番」と答える。

昨年の実績を見れば十分と周囲は思っても「20勝するには、去年より登板数も投球回数も増やしていくしかない」とさらに自分に負荷をかけるのが菅野という男だ。

だが、どんな鉄腕でも“勤続疲労"は確実にやって来る。かつての西鉄の大エース稲尾和久しかり、中日の権藤博もそうだった。

ある球界0Bは肉体だけではない疲労の蓄積を語る。

「毎年、好成績を挙げていく投手は、知らず知らずのうちにメンタル面の疲労もたまっていく。いつもベストな状態で投げられるわけではないが、何でいい時の投球ができないのかと、自分を追い詰めてしまう」

オフにハワイで行った自主トレは例年以上のハイペースと報道された。

宮崎キャンプでも5年ぶりに初日からブルペンに入って調整を行っている。すべては自身初の20勝とチームの優勝のため。そんなオーバーワークと心身両面の疲労の蓄積が腰痛と戦列離脱を生んでしまったのかもしれない。

「彼は完璧主義者だからね。練習を見ていてもまったく手抜きをしないし、100点以上の物を追及する。もう少し、ゆとりを持てばいいのにな、と思いますけれどね」

巨人からメジャーに渡り世界一を経験、その後再び巨人に戻りこの春で現役を引退した上原浩治さんはそう話す。

菅野も近い将来、メジャーに挑戦したい気持ちがないわけではない。

上原さんが「雑草派」を自認するのに対して菅野はまさにエリートだ。

原監督の甥っ子として、1年間の野球浪人を経て貫いた巨人愛、球界全体で見てもワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や、来年の東京五輪のエースとして期待されている。そう簡単にメジャーに行きたいとは言えないのもまた事実だ。

球界の絶対エースが初めて味わった挫折。その間にライバルの広島はどん底状態を脱して首位まで駆け上がった。

まだ、手の届かない位置ではない。今後、菅野がどれくらいの復調を遂げて、本来の姿に近づいていくのか。セ・リーグのペナントレースは、やはり菅野が鍵を握っている。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。