無事之名馬―。

競走馬の世界には、こんな言葉がある。「馬主にとってけがなく走る馬は名馬である」という意味合いで使われるようだが、これはモータースポーツの世界においても同じ。どれだけ速いマシンであってもチェッカーフラッグを受けなければ、勝利はおろかポイントも得られないからだ。

今シーズン、ホンダがレッドブルとパワーユニット(PU)供給契約を結んだことは大きなニュースとなった。レッドブルは、2010年から13年まで4年連続で製造者部門とドライバーズ部門のダブルタイトルを獲得するなど、圧倒的な強さを見せていた。しかし、14年のPUに関するルール変更を期に一変する。現行の「V6ターボ・ハイブリッド」導入だ。以降はメルセデスが王座に君臨。14年から5年連続でダブルタイトルを獲得している。

レッドブルのマシンはパワーの面では劣るものの、シャシーの性能でライバルたちを上回っている。それゆえ、PUの能力差が小さくなる、ストリートコースや中低速サーキットでは速さと強さを発揮してきた。それは、モナコGPやシンガポールGP、ハンガリーGP、アゼルバイジャンGP、オーストリアGPなどで、4勝を挙げた昨季もモナコとオーストリアで勝利している。

しかしながら、F1シーズンの幕開けとなるオーストラリアGPだけは別だ。典型的なストリートコースにもかかわらず、過去10年間で優勝したのは11年の1度だけで、表彰台も強かった11年から13年の3度のみ。決して相性が良いとは言えない。その理由は、シーズン開幕時におけるルノー製PUがパワーに加え信頼性でも大きく劣っていたからだ。14年のルール変更以降、この傾向は顕著となる。2台完成できたのは昨年だけなのだ。それだけに、ホンダ製PUに変更した今年は、ルノー製PUと同等以上のパフォーマンスを見せることが出来るのかに注目が集まったのだ。

結果は、レッドブルとして同GPでは13年以来となる3位表彰台を獲得。ホンダとしても15年の参戦復帰から5年目にして初めてだ。その前の第3期活動期までさかのぼると、08年のイギリスGP以来となるので、11年振りとなる。

さらに良かったのは、ホンダ製PUを使用するレッドブルとトロロッソの4台全てが完走したこと。「兄弟チーム」とされる両者にとって4台全てが開幕戦完走したのは、12年以来の快挙だった。

このオーストラリアGPの結果は、ホンダの開発陣にとっても大きな自信となったはずだ。レース後、テクニカルディレクターの田辺豊治さんが口にした「少しプレッシャーから開放されました」という言葉からも、開発方向性は正しかったという気持ちが感じられた。とはいえ、優勝した王者メルセデスとは依然大きな差があることも事実だ。

次戦はバーレーンGP、そして、第3戦中国GPが行われるサーキットにはともに長い直線があることが特徴。中でも、1950年にF1シリーズが創設されて以来、1000戦目となる中国GPのストレートは1・2キロにも及ぶ。ここでトップスピードを稼ぐセッティングに出来るかどうかは、PUの性能による部分が大きい。「無事之名馬」だけではF1王者にはなれない。再び世界に“ホンダパワー"を見せつけることができれば、王者メルセデスの背中も捕らえるチャンスが生まれる。そんなレースを今後も期待したい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)