3月9、10日に野球日本代表の本年初の強化試合が行われた。

対戦相手はメキシコ代表。世界ランキング6位の格下相手ながら、侍ジャパンの稲葉篤紀監督にとっては11月に行われる「プレミア12」と、翌年に控える東京五輪に向けて若手をテストする、実質上最後の機会と位置付けた。

結果は第1戦が逆転負けで第2戦は新4番・吉田正尚(オリックス)の満塁本塁打などで完勝。収穫と課題が浮き彫りとなる結果となった。

このメキシコ戦で、あらためて監督の期待をうかがわせる起用となったのが、ソフトバンクの成長株・上林誠知外野手だ。

初戦は1番打者として3安打の固め打ち。2戦目は無安打に終わったものの5番に抜擢されている。

しかも、この男の場合は若手のテストではない。まだ23歳ながら稲葉ジャパン発足以来、ただ一人連続で招集されている。

そればかりか、昨年の日米野球でも21打数10安打、打率は4割7分6厘と脅威の数字を残している。外国人相手にも滅法勝負強いのだ。

稲葉監督の現役時代の打撃フォームとどこか似ている。ポジションのライトも同じ。いつの頃からか「稲葉2世」「稲葉監督の秘蔵っ子」と呼ばれるようになった。

その指揮官が上林に対して、今回テストをしたとしたら「1番打者」の適性だろう。侍ジャパンのトップバッターと言えば、西武・秋山翔吾の定位置だった。

2015年には216安打で、シーズン最多のプロ野球記録を樹立した安打製造機は実績も抜群だ。

しかし、昨年オフの契約更改ではメジャー挑戦も視野に入れて単年契約を結んでいる。

付け加えるならDeNAの筒香嘉智も同じ事情で先行きは不透明だが、筒香の座っていた4番には柳田悠岐(ソフトバンク)山川穂高(西武)岡本和真(巨人)に、今回のメキシコ戦で実力を証明した吉田ら候補者は数多くいる。

しかし、1番打者はなかなか名前が出て来ない。出塁率が高く、俊足で、外国人特有の変則フォームにも適応できる。もし、万が一、秋山が海を渡った時の代役に上林を想定するのは当然のことだろう。

「早く柳田、秋山の時代を終わらせるように」。上林が報道陣を前にして、大胆な発言をしたのは今春のキャンプ前のことだ。

大言壮語をするタイプではない。「もう少し成績を残さないと話にならない。もっとチームに頼られる、結果で引っ張っていかないと」が本意ではあるが、同時に今季にかける強い決意の表れでもある。

昨年は自身初の全試合出場を果たし、打率2割7分、22本塁打でチームの日本一に貢献した。

さらに14本の三塁打は球界65年ぶりの記録。強肩外野手の証明である捕殺数でも2年連続で12球団トップ。この若武者には無限の伸びしろと可能性がある。

更なる飛躍を期して、今、上林が取り組んでいるのは左方向への長打を生む打法改造。昨年の22本塁打を方向別に見ると右に16、中に3、左へ3本と極端に右に偏っている。

僚友の柳田は右16、中8、そして左方向にも12本のアーチをかけている。

現時点では絶対的なパワーの違いもあるが、上林は違う見方をしている。

右投げ左打ちは柳田も一緒だが、互いに利き手は右手。これをバランスよく使っている柳田に対して、右手が強すぎるため左手の「押し込み」が不足していると自己分析する。

つまり、打球をとらえた瞬間に左手をもっと有効に使えれば、左方向への本塁打も増えて30本、40本のアーチ量産も可能になるという計算だ。

まだ、レギュラーの座をつかんだばかり。思い切った打法改造は逆効果になるリスクもはらんでいるが、上林の目はさらなる高みだけを見つめている。

「間違いなく、一つ上のレベルに上がっている」とソフトバンクの王貞治球団会長も成長を認める。

侍ジャパンの稲葉監督の信頼も厚い。こんな恵まれた環境で野球をやれる選手は少ない。

キャンプからオープン戦にかけて、新打法の感触はいまだ試行錯誤といったところだが、本番までにどう仕上げてくるか。

秋には打撃タイトルをとっていても、侍ジャパンの1番に座っていても驚くことはないだろう。背番号51には「イチロー2世」の願いもかけられている。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。