シーズン終盤に比べて、開幕当初はチームの完成度が低いのは致し方ないことだろう。前年のシーズンが終わり、新たなスタートを切るにあたって多くの新戦力が加わる。ただ、その新加入選手が必ずしもチームにフィットするとは限らない。

「今年のマリノス(横浜M)は面白いよ」

今季開幕戦でG大阪に3―2の勝利を収めた試合を観戦した知人からそう言われた。

正直なところ、にわかには信じられなかった。横浜Mはメンバーが昨季と比べ大幅に入れ替わっていたからだ。しかも主力級が何人も抜けてしまった。まず、中澤佑二が引退。そして、中町公祐や山中亮輔、ビエイラなどがチームを去った。いくら新戦力を加えていたとしても、チームが形を成すまでにはそれ相応の時間がかかるのではと思っていたのだ。

真偽のほどを確かめようと3月2日のJ1第2節仙台戦に足を運んでみた。試合終了後に感じたことは、横浜Mはこの時期にしてはかなり完成度の高いチームだったということだ。先発メンバーのうち5人が新加入選手ということを考えれば、驚くべきことだ。展開する内容もアグレッシブで、楽しい。攻撃的で、もう一度見たいと思わせるチームだった。

昨シーズン、横浜Mは最終順位こそ12位だったが、J2との入れ替え戦に臨んだ16位磐田と勝ち点が同じ41。ポゼッションを主体に超攻撃的な戦術を掲げたアンジェ・ポステコグルー監督のサッカーは、優勝した川崎が挙げた最多得点57にわずかに及ばなかったものの56だった。しかし、失点も56。これはV長崎(現J2)と名古屋が記録した最多失点59に次ぐ。多くのゴールは守備を犠牲にした上でのものだった。

仙台との試合は2―1とG大阪戦に続く1点差の勝利。それは結果がそうなっただけで、攻守のバランスが崩れることはなかった。大差がついてもおかしくない、完勝といえる内容だった。

中盤から前線は175センチ以上の選手が天野純だけという小柄なチーム。ただ、技術レベルはいずれも高いテクニシャンがそろっている。その選手たちが攻撃にも守備にもよく走る。両サイドバックも含めて前線にどんどん飛び出してくるトータルサッカーは、守備を固めたはずの仙台のゴール前にいとも簡単に侵入していった。

5バックと3ボランチで構成する仙台の守備網を無力にしたのは、ポゼッションとは言いながらも、横パスではなく縦パスを多用している。走り込む選手の前方にあるスペースにパスが出るのだから、守備側はスピードについていけない。前半27分にエジガルジュニオが決めた先制点。マルコスジュニオールが獲得したPKは、広瀬陸斗へのスルーパスから生まれた。

新加入選手ながらも、すでにチームの王様の風格を漂わせているのが、川崎から期限付きで移籍してきた21歳の三好康児だ。古巣の“バンディエラ"中村憲剛をほうふつとさせる、タメを作ったタイミングからの左足からのパスは美しくさえある。時間を自在に操れるので、右サイドでコンビを組む仲川輝人は信じて走れば絶妙のタイミングでパスが出てくる。

前半39分の2点目は、このコンビで完璧に右サイドを崩した。三好のスルーパスでペナルティーエリア内をライン際まで突き進んだ仲川が、完璧なクロス。自身この試合の2点目を決めたエジカルジュニオールは「とても素晴らしいクロス。決めるだけだった」とラストパスの質の高さを褒めるほどだった。

先発メンバーで30歳以上はGK飯倉大樹だけ。平均年齢25・09歳の若いチームが、なぜ完成度の高いサッカーを披露できるのか。それは加入してきた選手が、横浜Mがどのようなサッカーをするかを見極めて移籍してきたからだろう。

昨年は就任したばかりのポステコグルー監督が、どのようなサッカーを志向するか分からない選手もいたはずだ。しかし、今シーズン加入した選手、特に三好、広瀬、高野遼ら日本人選手は、移籍の際に横浜Mのサッカーに適性があるかを考えたはずだ。ポステコグルー監督も会見で「自分が望んだ選手が今年入った。彼らはやろうとしているサッカーをしっかり理解している」と言っていたが、それだからこそ予想以上にチームの形が早く出来上がっているのだろう。

仙台戦の横浜Mのボール保持率は66・4パーセント。ボールロストの回数もかなり少なかった。その点について三好は「常に選択肢が多いので」と説明する。選択肢が多ければ、相手はボールの奪い所を絞りづらくなる。さらに選手同士の距離感が良いので「失ったあとにすぐに奪い返せる。そこが常に攻撃できる要因なのかな」と語る。高い位置での良い守備が、攻撃に直結するのは当たり前なのだが、それを実行に移せるチームは必ずしも多くない。

残念ながら次節の試合は契約条件があるため、三好はレンタル元の川崎との試合には出場できないという。横浜Mと川崎。本心では、タイプは違うものの同じポゼッション志向のチームが相対する一戦をベストメンバーで見たかった。そう思っている人も多いのではないだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。