大騒動がまるでうそだったかのように、日本ボクシング連盟の新強化体制が静かに動き出している。

強権を握り、強烈な個性を放った山根明前会長がクローズアップされたのは昨夏だった。

助成金の不正流用や「奈良判定」と表現された審判の不正判定疑惑も取り沙汰された。

山根前会長は辞任し、昨年9月に内田貞信新会長が就任した。

2020年東京五輪まで2年を切ってのかじ取りの変更だった。

連盟の組織運営は重要な問題だ。ただ個人的には強化の面が一番気になっていた。

あの騒動に加え、国際ボクシング協会(AIBA)の組織運営や財政状況の問題を指摘され、国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪での実施の可否を今年6月に判断する極めて不透明な状況にある。

選手の士気に影響を及ぼしていないか危惧していた。

しかし、3月上旬に東京都内で実施された強化合宿で、私の心配は杞憂だったことが分かった。

本来は4月のアジア選手権(タイ)の代表選考会を行うはずだったが、同選手権が東京五輪で採用される体重階級ではなく現行の階級での実施になったため合宿に変更された。

集まったのは約40人のトップボクサー。前体制時ではこれだけの大人数での合宿はなかったという。

2016年リオデジャネイロ五輪代表の成松大介(自衛隊)は「変わったことはできない、自分の個性を磨くだけ」と黙々と汗を流し、ホープの堤駿斗(東洋大)は「これだけ強い選手がいると、自然と意識は高まる」と歓迎。誰もが生き生きとした表情が印象的だった。

プロのミニマム級で世界4団体制覇を達成し、五輪のメダルのためにアマチュアに転向した高山勝成(名古屋産大)も初参加した。

「すごく充実した、いいトレーニングができた。何をすべきか方向性が見えた」と手応えをにじませ、高山から助言を受けたという坂本達也(近大)は「高山さんは速いし、フェイントの使い方も違う」と笑みをみせる。

昨秋にアマチュア登録が認められた元世界王者の名城信男氏も指導者として参加した。

新体制発足後に進めるプロとアマの交流、五輪への共闘は思った以上にスムーズに行われていると感じることができた。

連盟幹部によると合宿中に東京五輪での実施が不透明なことについては触れられなかったという。

この幹部は「みんな出場が目標じゃない。メダルを目指している。選手たちも私たちも。選手は気迫と気力が充実しているし、指導者がぶれてはいけない」と語気を強めた。

男子は2012年ロンドン五輪金の村田諒太(帝拳)、銅の清水聡(大橋)以来のメダル獲得を目指し、女子にも表彰台を狙える有望選手は複数いる。

合宿の打ち上げの際に鶴木良夫副会長は「(東京五輪で会場となる)両国国技館で君が代を歌おう」と声高に訴えた。

他競技に比べ、選手や育成が注目されていない環境でようやく歩みだした五輪への道。連盟は祈る思いで東京五輪でのボクシング実施の署名をIOCに提出した。

運命が揺れ動く中で、情熱を傾ける拳に偽りはない。

2020年の夏、両国国技館で「あんな騒動もあったな」と、選手が笑える日が来ることを信じたい。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)プロフィル

2008年共同通信入社。09年末から福岡支社運動部でプロ野球ソフトバンクを主に担当。13年末から本社運動部で大相撲やボクシングを中心に取材。岐阜県出身。