昨年末に行われたフィギュアスケートの全日本選手権の女子は、まれに見る高レベルかつスリリングな戦いだった。

この仕事をやっているとスポーツの勝ち負けに一喜一憂することは少なくなるが、女子フリーが実施された12月23日は、私を含めて多くの報道陣がトップ選手たちのしのぎを削る姿に興奮した。

最終的に4人が220点の大台を超え、18歳の坂本花織(シスメックス)が初優勝。持ち前の豪快なジャンプに加え、繊細なプログラムを表現できるようになった滑りは、頂点に立つにふさわしいものだった。

神戸市出身。普段はコテコテの関西弁で愛嬌たっぷりな新女王は、2017~18年シーズンにシニアデビューし、急成長してきた。

17年全日本で2位に入り、平昌冬季五輪では6位入賞。そして昨年12月のグランプリ(GP)ファイナルを制した紀平梨花(関大KFSC)や平昌五輪4位の宮原知子(関大)らを破った今回の全日本制覇で、世界トップレベルのスケーターであることを示した。

優勝翌日の24日、単独インタビューをする機会に恵まれた。

日本一の栄冠を勝ち取りながらも「なんかまだ違和感じゃないが、しっくりきていない」と柔和な笑顔で率直に話す姿は、トップ選手になる前と変わらなかった。周囲も認めるこの「素直さ」が成長を続ける要因だ。

6歳から師事する中野園子コーチや、かつて通ったスイミングスクールの先生にも怒られ続け「そういう運命」と苦笑いするが、厳しい指導を真っすぐ正面から受け止められる心がある。

叱られる理由について「怒られる要因を自分から作っているからだと思います。怒られて自分のせいだなと思うのが大半。ある意味耐えられるというか…」と話す。

きちんと言われたことを自分なりに消化し、中野コーチが「本当に息ができなくなるまでやり切れるというのは大したもの」と舌を巻く豊富な練習量をこなす。今回の全日本でショートプログラム、フリーともミスなしで終えたことは決して偶然ではない。

出色だった映画「ピアノ・レッスン」の音楽を使用したフリーも、怒号が飛んだ練習を乗り越えたたまものだった。

フランス出身の振付師ブノワ・リショー氏からはウオーミングアップの時から怒られる。無論、リンクでも叱り飛ばされる。全日本前は「(滑るときに)いつも顔が死んでいる。表情も表現の一部だからしっかりアピールしてきなさい」と注意された。

その言葉を心に刻み「ジャッジ一人一人の目を見て演技してKOできた」。徐々に曲が盛り上がり、終盤にスパイラルが続く高難度な演目を滑りきり、課題だった表現面を示す演技点も5項目のうち四つで9点台(10点満点)をマークして逆転優勝につなげた。

リショー氏から「カオリを世界一のスケーターにしたい」と言われる逸材は、春に練習拠点からほど近い神戸学院大へ進む。

まだまだ中野コーチからの熱い指導は続きそうだが「今まで中野先生のところでやってきて、突然先生を代えることは絶対に無理だと思う。先生の厳しさがなくなると落ちていく一方なので。やめるまで先生のところにいる」。

これからも数え切れないほど“愛のむち"を受け、そのたびにたくましくなる。そんな姿が今から目に浮かぶ。

吉田 学史(よしだ・たかふみ)プロフィル

2006年共同通信入社。仙台などの支社局で警察や行政を担当して12年から大阪運動部で高校野球やサッカーを担当。14年12月に本社運動部へ異動して水泳、テニス、フィギュアスケートなどをカバー。東京都出身。