あっけなく敗れた末に、大会を去る―。そんなことも十分にあり得ると思っていた。しかし、日本代表はそんな杞憂(きゆう)を吹き飛ばす最高のプレーを見せてくれた。アラブ首長国連邦(UAE)で開催されているアジア・カップの準決勝で、最大の難敵と目されていたイランに3―0の完勝。1点差ゲームが続くなか、久しぶりに心穏やかな状態で終了のホイッスルを待つことができた。

ワールドカップ(W杯)ロシア大会に出場していたサウジアラビア、韓国、オーストラリアが、4強を前に敗退した今回のアジア杯。日本とイランの一戦は、事実上の決勝戦といってもいいカードだった。

両国が公式戦で対戦するのはジーコ・ジャパン時代の2005年8月17日(横浜、2―1で勝利)以来、13年半ぶり。しかも、イランはアジア勢に対しては公式戦で6年にわたり39戦無敗で、ロシア大会にもだという。間違いなく日本の優勝の前に立ちはだかる存在だった。

勝因はコンディション作りで日本が勝っていたことだろう。それを可能にしたのは日本の選手層の厚さだ。ウズベキスタンと対したグループリーグ第3戦でターンオーバーをして主力を休ませたことで、イラン戦のメンバーは心身ともにフレッシュな状態を保っていた。

前回のこのコラムでも書いたが、日本は「アジアという殻」を突き破り、一つ上のステージに向けて歩みを始めたのではないか。W杯メンバーで固めたイランを圧倒した日本は、新しく編成したばかりの、いわば未成熟のチームだ。例えば、現代表を象徴する存在の一人である堂安律は大きなポテンシャルを秘めているが、DFを背負った場面でのボールの受け方には改善の余地が十分にある。その未完成な状態でも、アジア最強といわれたイランに完勝したことを踏まえると、日本は思った以上に強いのかもしれない。加えて、未成熟なだけに伸びしろはかなりある。

それでも、捨て置けないことがあった。快勝にケチをつけるのかと思われる方もいるだろう。しかし、勝った試合だからこそ、あえて悪い面に目を向けなければいけない。

それは、GK権田修一の判断の悪さと不安定さだ。

前半22分、権田はイランCFアズムンのシュートを左足でコース変える好セーブを見せた。ただ、そのプレーに対し手放しで褒められるものではない。なぜなら、それは権田自身が招いたピンチ。言うならば、「マッチポンプ」だからだ。

理解できないのは、なんでプレスの標的として明らかに狙われている味方にショートパスをつなごうとするのかだ。1―0で勝利したベトナム戦でも、権田は吉田麻也に対し失点につながっても不思議ではない無謀なパスを出した。その教訓があるのに、権田はまたやってしまった。相手3人に囲まれた遠藤航にショートパスを出したはいいが、そのボールはアズムンに触られて、遠藤には渡らなかった。結果、カウンターから決定機を作られた。

ポゼッションサッカーで、GKもビルドアップに加わる。結構なことだ。ただ、状況をわきまえた使い方をしなければ、ただの愚か者だ。百歩譲ってグループリーグなら許そう。しかし、戦っているのは「負ければ終わり」のトーナメントだ。すべてに優先されるのはセーフティーファーストだ。事実、日本の守備陣もこの試合では、プレッシャーの掛けられた場面で単純なクリアを選択する場面が多かった。フィールドプレーヤーでさえそのように心掛けていた状況で、GKがあえて危険なパスを選択する。まったくもって理解不能だ。

「他人に迷惑をかけてはダメですよ」。周囲との共生を美徳とする日本では、親を始めとする大人が子供にこのことを教え込むことが普通となっている。権田の危険なパスはそれとは完全に対極にある。ベトナム戦の吉田、そしてイラン戦の遠藤ともにパスを出された瞬間は、完全に相手ゴールに背を向け、背後の敵が分からない状況だ。それでパスを出されたら、受け手は迷惑以外のなにものでもない。

0―0の拮抗(きっこう)した状況から、あのチャンスをアズムンに決められていたら、展開はまったく違ったものになっていただろう。1点を追い、攻めに出る日本に対し、イランがカウンターで追加点を決める。中国戦の試合を見ていれば、彼らの戦い方が容易に想像できる。だからこそ、守備に関してはより慎重にならなければならなかった。GKのロングキックでボールを失って、そこから失点につながる確率より、ゴール近くでのパスを狙われて失点する危険性のほうが圧倒的に高いのだ。

権田に対する個人攻撃のようになってしまったが、それは本意ではない。ベトナム戦の教訓をまったく生かしていなかったから、厳しく指摘せざるを得ないのだ。当然、問題はそれを指摘しないGKコーチにもある。自陣で大きなリスクのあるショートパスをつなぐのは、GKの自己満足でしかない。所属チームでのプレーならばそれでもいいが、これは日本の国を背負った4年に1度しかない戦いだ。

試合の勝敗の鍵を握るのは、ストライカーよりもむしろGKだ。日本もやっとそのことに気付き始めてきた。日本はこのポジションに関しては、アジアのレベルであってもアドバンテージを持っているとは言い難い。

多少時間はかかる。だが、問題を解決するには、まず各Jクラブが優秀なGKコーチを保有することだ。身体能力に優れた素材が、確かな理論の元に数多く育てられる。そのなかのえりすぐりのGKが日の丸をつけなければ、世界で好結果を出すことは難しくなってくるのではないだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。