劣勢でも耐えていれば、いずれ潮目が変わる。その時、訪れるチャンスを逃すことなく確実に決めることができるかどうかが勝敗の分かれ目となる。いわゆる「勝負強い」といわれ、トーナメントを勝ち抜いていくチームは、これらの要素を備えていることが多い。

日本ではJ1鹿島が代表格だろう。Jリーグ開幕以来、安定した強さを持続。結果として鹿島はJリーグのチームとしては最多となる「20冠」を獲得してきた。だが、その全てが自らの強さを見せつけて勝ち取ったものというわけではない。中には、相手に押され、苦しみもがいた末に手繰り寄せたタイトルもあっただろう。

アラブ首長国連邦(UAE)で開催されているFIFAクラブワールドカップ(W杯)。締め切りの関係で2年ぶりに相対するレアル・マドリード(スペイン)戦についてのリポートは間に合わない。それでも、初戦となる北中米カリブ海代表のグアダラハラ(メキシコ)との一戦で見せた鹿島の戦いぶりは、このクラブの伝統を十分に反映した「らしさ」あふれるものだった。

メキシコ代表が、現、元を含めて6人。チームそのものに関する知識はないので代表チームを基準にして考えるしかないのだが、グアダラハラはおそらく強いだろうと考えていた。本田圭佑も所属したメキシコリーグは、年俸が高いのだそうだ。だから、メキシコ代表のほとんどが自国でプレーする。結果、クラブのレベルも高くなる。有望選手の大半が欧州でプレーする南米とは違うのだ。

実際、グアダラハラはメキシコ代表のイメージをそのまま体現したチームだった。長身選手はそういないのだが、胸板が厚くフィジカルに優れる。細かいテクニックとショートパスを得意とし、組織的なプレーをしてきた。

開始3分過ぎ、グアダラハラが早々に素晴らしい攻撃を見せる。右サイドのブリスエラが自陣からドリブルで駆け上がり鹿島守備陣に侵入すると、完璧なクロスを放つ。それをヘディングで見事に合わせたサルディバルがたたき込み先制点を奪った。

反撃に出たい鹿島だったが、何もできない。国際経験豊富な内田篤人やレオ・シルバにもパスミスが目立つ。相手が寄せる際の「圧力」が影響しているのだろう。正直なところ、前半を見る限りでは勝利をたぐり寄せるのはかなり難しい状況だった。

攻撃に関しては見るべきところはほぼない。ただ、前半の鹿島に良い点を見つけるとすれば早々に失点してから追加点を許さなかったことだ。特にGKの権純泰(クォン・スンテ)は、前半40分に再び強襲したサルディバルのシュートをビッグセーブで弾き出すなど、数々の好守を披露した。CBの鄭昇☆(火ヘンに玄)(チョン・スンヒョン)も含め、この日の2人の韓国人選手は試合全体を通して存在感が際立った。

日本国内でもよく目にするのだが、たとえ内容で圧倒していても点を取らなければ相手は降参しない。やれるときにとどめを刺しておかなければ、相手は息を吹き返してくる。この試合がまさにそうだった。前半は死んでいた鹿島が、19歳の安部裕葵を後半開始から投入したことで劇的に良くなるのだ。

そして、交代から間もない後半4分。鹿島がカウンターアタックのお手本のような展開を見せて同点とする。相手の守備を崩したのはこれが初めてと言ってだろう。GK権のパントをポストに入ったセルジーニョが左サイドの土居聖真につなぎ、最後はその折り返しをフリーの永木亮太がプッシュ。GK権の低く正確なパント。セルジーニョのタメ。土居の突破と正確なセンタリング。そして、永木の長駆の攻め上がり―。全ての要素が無駄なく組み合った素晴らしいゴールだった。

試合は追いついた方に勢いが出るという。そんな言葉通りの流れになる。後半24分には土居が得たPKをセルジーニョが決めて2―1とリードを奪い、後半39分には試合を決める芸術的な3点目が安部の右足から生まれた。

翌日のイタリア紙は、同国が生んだファンタジスタに例えて「デルピエロのようだった」と報じたそうだ。それほどに安部のゴールは美しかった。左コーナーの安西幸輝から戻されたボール。安部はペナルティーエリアの左角にいた。そう、「デルピエロ・ゾーン」と呼ばれたエリアだ。その斜め45度から右足でカーブをかけた弾道でファーポスト際を狙えば、どんな名GKでも手が届くことはない。高難度の技術を、鹿島の期待の星は涼しい顔でやってのけたのだ。

終了間際にPKで1点は返されたが、3―2の試合は最終的に鹿島のペースであり、順当な勝利だった。終わってみれば鹿島が鹿島らしく、堅い試合運びで勝利をつかんだ。それを世界中のサッカーファンがテレビを通して観戦したことだろう。

Jリーグ勢で欧州の人々に認識されているチームは存在しないだろう。鹿島にはそんなクラブになれる可能性を持っている。まず、2年前にクラブW杯でレアル・マドリードを追い詰めた実績がある。加えて、サッカー史にその名を刻む「レジェンド」ジーコがいるのだ。十分に“世界区"に飛躍する可能性を秘めている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。