トライアスロンを担当するようになって2年余りになるが、10月14日に東京・お台場で開催された日本選手権の女子は、競技の奥深さを思い知らされるレースの一つだった。

スイム(1・5キロ)を終え、バイク(40キロ)で今夏のジャカルタ・アジア大会女王の高橋侑子(富士通)や昨年優勝の佐藤優香(トーシンパートナーズ・NTT東日本・NTT西日本・チームケンズ)が先頭集団を形成し、過去に優勝5度の上田藍(ペリエ・グリーンタワー・ブリヂストン・稲毛インター)が第2集団に入る展開となった。

スイムを苦手とする上田がこの位置になるのは予想通りの流れで、タイム差も許容範囲内。2017年の右鎖骨骨折の影響から徐々に調子を取り戻してきた上田がバイクで先頭集団に迫れれば、ラン(10キロ)では国内屈指の走力を誇るだけに、逆転優勝もあり得るように思えた。

スイムを終え、約1分だった上田と先頭との差は、バイクの序盤で30秒ほどに縮まる。

しかし、ここから逆に差は広がっていく。最終的にバイク終了時は約2分差に。上田でも逆転は厳しい状況になり、最終順位は6位に終わった。

レース後、上田にバイクで追い上げられなかった理由を聞くと「私たちの集団(にいた他の選手)に、ペースを上げないようにという指示がコーチから出ていた」。

トライアスロンのバイクではトップ集団を追う場合、後続集団は空気抵抗が大きくなる先頭の選手が入れ替わりながら、体力を温存してハイペースを保つ「協力」が行われる。

ただ、この協力が行われるには、集団にいる選手たちが「先頭グループを追い上げよう」という共通意識を持っている必要がある。

今大会で優勝を争う選手たちが最も警戒していたのが上田だった。

佐藤によると、チームの事前の会議で「上田マーク」を決めていたという。チーム内で最も力のある佐藤を優勝に近づけるため、バイクで第2集団に入った同僚の選手は上田に追い上げを許さないよう、ペースを抑えアシスト役に徹した。

上田は集団を抜け出して一人でハイペースを維持しても、単独走では空気抵抗を受け続け体力を大きく消耗してしまうため、やむなく第2集団で走り続けることを選択せざるを得なかった。

最終的には佐藤とのラン勝負を制した高橋が初の日本一に輝いたが、どの選手をマークするか、各選手の戦略の立て方によっては、まったく異なるレース展開になる可能性もあった。

1カ国・地域から最大3人が出場できる五輪でも、チーム戦略はメダルの行方を左右する重要な要素となる。

日本選手権とコースは異なるが、同じお台場で開催される2020年東京五輪のレースでは、各選手による駆け引きにも注目してもらいたい。

中嶋 巧(なかじま・たくみ)プロフィル

2007年共同通信入社。松江支局、大阪支社経済部を経て13年2月から運動部。17年10月から平昌冬季五輪・パラリンピック取材のため現地支局長を務め、18年3月から再び運動部。体操、トライアスロン、スポーツクライミング、そり競技を担当。