台風24号の接近による悪天候も相まって、前半が終わった時点では「来なければよかった」と後悔した観客もかなりいたのではないか。雨のなか選手たちが頑張っているのは分かるのだが、プロらしい見せ場はほとんどない。唯一、ゴール右にそれたヘディングシュートが1本あっただけだ。

それでもスタジアムに3万3千人強の人数が集まったのは、これがFC東京のクラブ創立20周年を記念する試合だったからだろう。J1第28節のFC東京対清水。その前座でFC東京の懐かしい顔ぶれによるOB戦が行われただけでなく、入場者にはレプリカ・ユニホームが配られた。これら“サイドディッシュ"のおいしさに、つられて来た人の比率は高かったはずだ。

記録によると、前半のシュートはFC東京の3本に対し清水は2本。枠内はともに0だ。ハーフタイムを挟んで、雨脚はさらに強まっていく。それでも試合観戦のモチベーションを保てたのは清水の選手たちが、時折面白いプレーを見せてくれたからだ。そして最終的には、“メインディッシュ"である試合も満足ゆくものになった。

後半に入っても、一本調子のプレーを続けた東京と対照的に、清水は的確な修正を加えてきた。ヤン・ヨンソン監督が求めたのは、ドウグラスと北川航也の2トップと、ドリブラー・金子翔太の距離感だった。「もっと近づけという指示を出した」ことで攻撃のコンビネーションが高まった。

スタンドから見ていると無駄な動きと思えても、点を取る人というのは同じことを地道に繰り返すのものだ―。改めて、そう思えたのは北川の「点を取れていないときでも、やり続けることは変わらない」というコメントだった。その言葉通りのプレーで、北川は先制点を奪ってみせた。

後半25分、左サイドでフリーになったドウグラスに白崎凌兵からパスが入る。ペナルティーエリア左角の外。ゴールまで30メートル以上あるエリアでも迷いはなかった。「コントロールした瞬間に打とうと思った」。ドウグラスは周囲が予想しないエリアから左足で強烈なロングシュートを放った。

白崎がパスを出す前、ドウグラスと並走していたのが北川だ。最初の選択肢はセンタリングを受けて自らがシュートを打つことだった。しかし、「横パスが来るかなと思ったけど来なかった」ともくろみが狂った。そこで、次の選択だったシュートのこぼれ球に対するフォローに入った。

「ドウグ(ドウグラス)がシュートを打ったらGKがこぼすなという感じもしていたんで、反応してそこにいることが大事かなと」。

予想通り、FC東京のGK林彰洋はシュートを左手で触ってはじくのが精いっぱい。忠実な動きでゴール前に詰めた北川は、浮き上がったボールを無人のゴールにヘディングで送り込めばいいだけだった。

後半36分にはドウグラスが東京DFチャン・ヒョンスに倒されてPKを獲得。これをドウグラス自らが決めて2―0の勝利を飾った。しかし、その2点目を挙げる前には、清水にも絶体絶命のピンチがあった。それが決まっていれば、勝敗は分からなかった。

FC東京とすれば、後半33分の攻撃は狙い通りの展開だった。交代投入された俊足の永井謙佑が右サイドを突破し、マイナスの折り返し。それをフリーの高萩洋次郎が右足で合わせた。右隅に飛んだそのシュートを、清水のGK六反勇治が見事な反応でセーブした。

「失点が続いていたなかで、試合(の流れ)を変えられるようなビックセーブがなかった。そういうものを考えればよかったと思う」。試合後、六反が満足そうに振り返った。

清水の試合前の順位は10位。とはいえ、残り7試合でJ2へ自動降格する17位との勝ち点差はわずかに4。最下位に沈む長崎との差ですら7だ。その意味で順位を9位に亜画てこと以上に3ポイントを上積みして、J2チームとの入れ替え戦出場となる16位鳥栖との点差を7としたことが大きい。もちろん大混戦となっている今シーズンを思えば、まだ予断は許さない。それでも清水とすれば久しぶりに味わう充実感だろう。付言すれば、無失点での勝利は実に10試合ぶりだ。

加えて、もう一つの呪縛から解き放たれた。メーカーの戦略で清水は昨季から夏場の試合でシャツが黒のユニホームを着用している。ところが、このシャツを着て以降、一度も勝利を収めたことがなかったのだ。昨シーズンも当初は順調だったが、黒シャツのユニホームを着た夏場から急激に失速。残留争いに巻き込まれた。いつしか黒いユニホームはサポーターの間では、「呪いのユニホーム」といわれるようになったのだという。

この日も本来は、黒いユニホームを着る予定ではなかった。ところがFC東京が20周年記念の金色のシャツを着たことで、色味が似通ったオレンジや白は着られなかった。そのなかでの、黒のジンクスを覆した会心の勝利だった。

雨は必ずしも悪い思い出とセットであるものではない。きっと清水の選手やサポーターも、この夜はそう思ったはずだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。