サッカーの元イタリア代表で、サイドを切り裂くドリブルで名をはせたロベルト・ドナドニ氏(55)が9月に来日し、J1を視察した。

イタリア1部リーグ(セリエA)の強豪ACミランでリーグ優勝6度、欧州チャンピオンズリーグは前身の欧州チャンピオンズカップも含め優勝3度、ワールドカップ(W杯)は地元イタリア開催の1990年大会で3位、94年米国大会は準優勝と輝かしい実績を誇る。

現役引退後は監督に転身してセリエAの中堅クラブで手腕を発揮し、2006年から約2年間、W杯覇者だった母国代表も率いた。

サッカー大国イタリアのレジェンドだが、インタビューを通して最も感じたのは、全く偉ぶらない気さくで温厚な人柄だった。

かつて中田英寿も所属したボローニャを昨季まで約3年率い、シーズン終了後に退任。現在はフリーで「後学のために」と世界各国のリーグを視察して回っている。

J1は6試合をスタンド観戦し「感心するほどレベルが高い試合もあった」と好印象を得た様子で「どんな可能性も排除しない。喜んで話を聞く」と、Jリーグのクラブに誘われれば前向きに検討すると明言した。

「優勝を争うクラブである必要はない。残留であっても目標が明確ならばモチベーションは芽生えるものだ。それを託してもらえるなら光栄だ」と話す表情は誠実みにあふれ、目力から強い挑戦心が伝わってきた。

サッカーの見識は言わずもがな。2008年欧州選手権で1次リーグ突破に導き、準々決勝はスペインとPK戦にもつれ込む熱戦で冷静沈着に指揮を執った。

スペインは同選手権を制し、2年後のW杯も優勝するなど黄金期の玄関口にあった。「あれほど厳しい重圧を感じる仕事もないだろう。内容としては見応えのあるサッカーを披露できたと思うし、既に最強だったスペインとも互角に戦えた。素晴らしい経験だ」と振り返る。

選手として米国W杯では、時差や猛暑とも闘い抜いて決勝までたどり着いた。

今年のロシア大会で日本は2度目のベスト16進出を遂げたが「技術は申し分ないし、体力的にも(決勝トーナメント1回戦で対戦した)ベルギーより余裕があるように見えた。ただ、勝つための賢さが足りなかった」と指摘。日本の進歩を認めた上で「伝統を誇り、常に大きな重圧と向き合うイタリアの選手は強いメンタリティーを受け継いできた。そうしたところの差がW杯では出るものだ。日本がベルギーに負けたのは個の力の差だが、それは技術面ではなく、むしろ試合運びの面が大きかった」と、オブラートに包むことなく思ったままを話してくれた。

2016年にイタリア・サッカー連盟から代表監督復帰のオファーを受け、苦渋の選択だったが断ったという。

「当時はボローニャを率いていて、契約途中で離れるのは不誠実だと思った」。そんな信念を持つからこそ、日本人のまじめさや勤勉さにも敬意を表す。

「僕は約束や秩序を守る日本人が好きだ。そういう選手たちとならいいチームがつくれるはずだよ」と人なつこい笑みを浮かべ、Jリーグを盛り上げるスター監督の誕生に期待を持たせた。

戸部 丈嗣(とべ・たけつぐ)プロフィル

1997年共同通信入社。サッカーのW杯や夏冬の五輪などを中心に取材。15年からリオデジャネイロ支局で五輪とパラリンピックを準備段階から現地で取材し、帰国後の18年2月から本社運動部でデスクを務める。