必殺仕事人。かつてそんなタイトルの時代劇があった。金銭で弱い人々の恨みを晴らす。そんな痛快な内容から高い人気を誇った。ところが、残念なことにサッカー界には「仕事人」と呼べる日本人選手があまり見当たらない。“裏稼業"だから姿を見せないだろうか。それとも、現実には存在しないから憧れの存在としてドラマに描くしかないのだろうか。

日本人は画一さを好む傾向がある。ことわざの「出るくいは打たれる」が身近で起こったとしても、何ら疑問を抱かない人がたくさんいる。それゆえ、教育やスポーツにおける人材育成の場面では、長所を伸ばすのではなく短所を直すことにより重きが置かれることになる。結果、作り出された選手は、確かに大きな欠点はないかもしれない。一方で誰にも負けないという武器もない。そう、没個性だ。見渡せば、金太郎あめのような選手が増えてくる。しかし、実際の試合において、勝敗の行方を決める選手というのは人とは違う技能を持った選手ばかりなのだ。

その意味で、この選手はJリーグのなかでも「仕事人」と呼んでいい、数少ないスペシャルな存在ではなかろうか。9月16日のJ1第26節、J1浦和戦で今シーズンの10ゴール目を決めた、横浜Mのビエイラだ。

イタリア1部リーグの名門・ACミランなどで活躍したサビチェビッチやJ1名古屋で人々を魅了するプレーを見せたストイコビッチを輩出し、1991年にはクラブ世界一に輝いたこともあるセルビアの古豪レッドスター。2015―2016シーズンにここで20ゴールを記録し、リーグMVPに輝いた実績を持つポルトガル人は点を取ることに特化したスペシャリストだ。ビエイラのプレーの特徴は、頭脳的な駆け引き。フィジカルを前面に押し出さないところは日本人でもまねしやすい。

浦和戦のゴールは、文字通り“痛快な"一発となった。1点をリードされた状況で途中投入されてからわずか4分後、後半24分のプレーだった。左サイドをドリブル突破した遠藤渓太のクロスを受けて、左足でゴールに流し込んだ。天野純から遠藤に縦パスが入った時点でビエイラは浦和のCB2人の視界に捉えられていた。しかし、遠藤がドリブルを始め彼らの視線がボールに注がれると同時に、視野から消える背後に回り込んだ。

次に姿を現すのは遠藤がグラウンダーでマイナスのクロスを送るのと同じタイミングだ。DFマウリシオの背後から前へ出て先にボールを触ると、右アウトサイドで3度、細かいタッチを見せた後に繰り出したターンでマウリシオに尻もちをつかせる。最後は右に体重移動するGK西川周作の逆をついて左足の「コロコロ・シュート」で仕留めた。相手の重心の逆を取れば、どんな弱いボールでも止められることはない。ちなみにビエイラは右利きだ。

1―2で敗れたこともあって、試合後は浮かない表情だった。それでも「素晴らしいゴールだった」と言葉を掛けると「ありがとうございます」と日本語で答えてくれた。そして、ゴール場面を振り返った。

「左サイドからケイタ(遠藤)がドリブルをして、そこからクロスがきた。(シュートを)打つふりをしてトラップをしてちょっと(ボールを)運んで。そこでGKがちょっと見えたので右に流し込んで…」

見た目には派手さには欠けるのだが、駆け引きと技巧という意味では最高級難度のゴールだ。それを一番感じているのはGK西川と、芝生の上にひれ伏すことになったマウリシオではないだろうか。

サイドから攻撃を仕掛けるとき、ストライカーはDFの視界から一度消える。そして、ゴール前にボールが入ってきた瞬間にDFの前に出て勝負する。これが最も得点が取れるパターンだ。それは誰でも分かりきっていることなのに、サイドの選手が意味のない切り返しを行う。結果、ゴール前で駆け引きするタイミングを失っているストライカーが、日本のサッカーでは圧倒的に多い気がする。いつ入ってくるかも分からないボールに対し、駆け引きを諦めてしまうという悪しきサイクルが、日本サッカーにはできつつあるのではないだろうか。その意味で指導者は、この日のビエイラのゴールに至る過程をよく見直すべきだ。

加入1年目だった昨シーズンに続き、今シーズンもヴィエイラは得点数を10とした。しかし、ポルトガルの点取り屋は悩んでいるのだという。昨年は自らが得点を挙げた9試合は8勝1敗と大きく勝ち越した。ところが、今年は8試合で3勝1分け4敗。勝ちに結びついていないのだ。その意味でポステコクール監督が、失点を減らすことに何の策も講じていないことは、はなはだ疑問だ。

同じ第26節終了時点での失点を比べると、昨季が21だったのに対し、今シーズンは45。確かに得点は43とリーグ最多だが、リーグ戦で大切なのは順位と勝ち点だ。現在の横浜Mの順位は14位だが、勝ち点では降格する可能性がある16位と同じだ。サポーターからすれば「攻撃サッカーもいいが、チームはポステコクールの実験材料ではない」という思いが、強いはずだ。

早急に手を打ったほうがいいだろう。このクラブは、鹿島とともに、唯一J2に降格していないという誇れる歴史がある。失った後に価値の大きさに気づいても遅いのだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。