考え方一つで人生は輝き方が変わるものだ。巨人担当3年目の今年は、長嶋茂雄元監督が語っていた話を思い起こすことがたびたびある。

「言葉というのは野球選手の一番大きい力だ」。これは選手ではない私たちにも当てはまることだと思う。

その理由を説明するためにも今季、選手から聞いて胸が熱くなった三つのエピソードを紹介したい。

4年目の岡本和真にとって2018年は飛躍の年となった。過去3年間で1軍出場はわずか35試合だったが、今季は安打も打点も本塁打も量産中だ。

6月2日からはついに4番に座った。それからしばらくたって試合前に心境を聞くと岡本は「楽しいっす」と即答、続けてこんな風に話してくれた。「2軍と比べて悔しさも倍増ですけど、1軍で打てなくて悩むってぜいたくじゃないですか。ファームでずっとやってきていたから感じます」と。

岡本が使ったのは「幸せ」ではなく「ぜいたく」という言葉だった。現状に満足せず、地に足をつけて日々奮闘している。今、目の前にあるものが当たり前ではないとはっきり自覚しているのだと感じた。

先発ローテーションの柱を担う山口俊は5月上旬に打ち込まれる試合があった。

その後の試合前早出練習で、たまたまベテラン阿部慎之助とキャッチボールしたときだった。身ぶり手ぶりも交えて球の角度と手の位置について助言を受けた。

その際に「振りやすいところを探して楽をしていたのかもしれない。腕が振れていると自分の勘違いがあった」と気付いたという。

肘を下げれば負担も減り、腕を振っている、つまり頑張っている感覚になる。しかし、反比例で球の質は低下してしまう。その少しの「勘違い」を修正し、以降は大崩れせずに活躍している。

かつてエースとして君臨していた内海哲也。近年はなかなか好成績を収められず、全盛期当時のプライドを引きずっていた。

同じように2、3軍で練習するベテラン選手たちとは日本一を決めた年の話などで盛り上がることもあった。そんな腐りかけそうになったときに、杉内俊哉の言葉でわれに返ったという。

「過去の栄光は生ゴミと一緒。そこにすがっているようじゃ駄目だ」。通算142勝の先輩投手は2015年10月に受けた右股関節の手術の影響などで、その後の2年間、1軍での登板がない。

さらに今年は故障で投げることさえできない状態が続きながら、後ろを振り向かずにリハビリや練習に励んでいる。

内海は自分の姿と重ね合わせ、「こんなはずじゃなかったと思ってやっていた。自分は何をそんなに考えているんだろうと思わされた」と、投げることができる自分を現実逃避していると恥じた。

紹介した三つのエピソードが語る人生訓は、単にプロ野球の世界だけの話ではないと思う。成功に慢心し、日々の努力を怠ったり、楽な道を選択したり、過去の栄光を引きずったり…。生きていれば誰にでも起こることではないだろうか。

プロ野球を取材していて、第一線で戦う選手たちからは、メンタル面の強さをひしひしと感じる。

私も初心を胸に、楽な方向に逃げず、しっかりと前を向いて選手たちの言葉を、一人でも多くの読者に届けていきたいと思う。

白石 明之(しらいし・あきゆき)プロフィル

2010年共同通信入社。札幌編集部でプロ野球日本ハム、大阪運動部で阪神やサッカーなどを取材。15年12月末に本社運動部へ戻り、巨人を担当する。早実高、早大時代は野球部に所属した。埼玉県出身。