プロ野球では軍事技術を応用した弾道測定器「トラックマン」の利用が進んでいる。

2016年のシーズン中から導入した西武では、エースの菊池雄星が積極的に利用している。

投手は球速、ボールの回転数、変化量、リリースポイントの高さ、打者は打球の速度、角度、飛距離といった多様なデータを測定することができる。

およそ30の項目のうち、菊池が重視するのは3、4項目。「毎試合後、前回と何が違うのか、今日はここが悪かったから三振が取れなかったとか聞いている」という。

「トラックマン」といえば、投手では投げるボールの回転数が取り上げられがちだが、今季の菊池にとって重要だったのは「リリースポイントの高さ」だった。

5月6日、左肩の張りが取れずに出場選手登録を外れた。病院での診断は、肩の「機能低下」。球団による説明は「投げることに支障はないが、投球後の回復が遅い状態」。6月1日の阪神戦で復帰したが、その後も登板間のブルペンで腕の位置を確認する動作が見えた。

菊池は「リリースの高さが試合によって変わっていた。去年より、平均して2センチくらい上がっていて、そうすると肩にも負担がかかる」と明かした。

復帰2戦目となった6月8日の巨人戦では「平均より7センチくらい高かった」という。上手投げよりもリリースポイントが下がるスリークオーターの菊池にとって、「上がれば上るほど肩に負担がかかる」という。

そんな中、6月22日のロッテ戦で、エースは試合中にリリースの位置を微調整。土肥義弘投手コーチは「最初はしっくりきていない感じだった。途中で腕を振る位置を微調整して、本人も良くなったと言っていた。次につながる」と話した。

数センチの違いだが、プロの世界ではわずかな差が結果にもたらす影響は大きい。菊池は「肩の機能を戻しても(投球)動作を戻さないと張りを繰り返していた。トラックマンを見て助かった」と感謝した。

トラックマン関連の取材をする中で、スポーツの動作解析などを専門とする国学院大の神事努准教授の言葉が印象的だった。

「トッププロになればなるほど、自分の感覚が研ぎ澄まされている。選手は感覚的にお化けの人たち」。これまで感覚で把握するしかなかった分野を、明確に数字で提示してくれる相棒なのだ。

神事准教授は「小さな差を増幅させて言葉にするので、その違いが分かるのがトラックマン。それがなかったのが出てきて、数字としてみられるのは選手として楽しくてたまらない」とメリットを挙げた。

スポーツには数字がつきものだ。現在行われているサッカーのワールドカップ(W杯)では、ピッチ上の選手の1試合の走行距離、最高時速といったデータが提供されている。

米大リーグでは映像で選手のパフォーマンスを分析する「スタットキャスト」を用いて、ボールに関する部分だけでなく、守備や走塁での選手の動きも数値化することができる。多様なデータが、よりスポーツに彩りを与えてくれている。

大坪 雅博(おおつぼ・まさひろ)プロフィル

2009年共同通信入社。名古屋運動部で10年のJ1名古屋初優勝を取材し、11年からプロ野球中日、フィギュアスケートなどを担当。14年から本社運動部でバレーボールやアマ野球をカバーし、17年からプロ野球西武を担当。東京都出身。