独特のしわがれ声で発する一言一言に、喜びがにじみ出ていた。大相撲夏場所で13勝を挙げて大関に昇進したジョージア出身の栃ノ心関だ。

6月上旬の1年ぶりの帰国は、まさに凱旋となった。「みんな『オオゼキ』とか『トチ』と呼んでくれてね。うれしかったなあ」と青い瞳を輝かせる。

ジョージアの国名は、日本では2015年にグルジアから呼称が変更された。

外務省のホームページによると、面積は日本の約5分の1の大きさで2017年現在、人口は390万人、在留邦人は36人だという。

筆者は足を運んだ経験はないが、なじみの薄かったコーカサス地方の国の歓迎は熱烈だったようだ。

テレビ番組への出演や、マルグベラシビリ大統領との面会など多忙なスケジュールをこなした。

ちなみに名産はワイン。角界屈指の酒豪で知られる栃ノ心関が「いや、もうね、大変だったよ」とぼそり。同国で初めて、欧州では3人目の大関誕生の祝宴はとにかく大いに盛り上がったようだ。

2005年に来日した栃ノ心関は家族がさみしがる空港での景色を忘れていない。

13年がたち一躍母国の英雄となった。「遠い国からやってきて、相撲をやったことで子どもからお年寄りまで、自分を知ってくれるようになった。ありがたい」と大相撲への感謝を口にする。

数多くのプロスポーツがある中で、大相撲ほど故郷の存在がクローズアップされるものはないのではないか。

昇進力士の原稿を書くときは「○○県出身では○年ぶり」を調べるのは日常茶飯事のことだ。

夏場所では旭大星関が大鵬、北の湖、千代の富士らを生んだ北海道出身で26年ぶりの新入幕と話題になった。

旭大星関は「十両の時でも、居酒屋で知らない方から『自分も北海道です。頑張ってください』と握手を求められたりして、期待されているなと感じましたよ」と懐かしそうに笑う。

「江戸の大関よりくにの三段目」との言葉は郷里との絆を象徴するものだろう。

御嶽海関(長野県出身)、隠岐の海関(島根県出身)ら、故郷の期待が込められたしこ名も多い。

東日本大震災の被災地に巡業取材に赴いた際には、「今、序二段のご当地力士を早くテレビで見たいんです」と心待ちにしていた女性がいた。きっと、多くの人が序ノ口から横綱までどの力士にも故郷の代表として、声援を送っているに違いない。

だからこそ、思うことがある。大相撲は昨年10月下旬の元横綱日馬富士関の傷害事件から始まった不祥事の連続で大きく揺れた。

立て直しを図る日本相撲協会は、研修会や各部屋での指導で再発防止に取り組んでいる。

ようやく土俵に集中できる状況は取り戻しつつある。それだけに、もう一度、大相撲が失望させてしまった故郷から見守る家族や知人、ファンの姿を思い起こしてほしい。

シンプルなことかもしれないが、自然と背筋が伸びるのではないか。ジョージアの390万人の国民も、日本の1億2650万人も、後ろめたさのない堂々とした大相撲を望んでいる。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)プロフィル

2008年共同通信入社。2009年末から福岡支社運動部でプロ野球ソフトバンクを主に担当。2013年末から本社運動部で大相撲やボクシングを中心に取材。岐阜県出身。