サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会における日本代表の初戦まで1週間。本来ならば、チーム作りの総仕上げに充てる時期だ。そして、指揮官は選手らを一つにまとめ上げて、「戦う集団」に変えることに心を注ぐ。ところが、23人の選手で構成される西野ジャパンは、一つになるどころか、何と二つのチームを生み出してしまった。

3試合。4月の就任からW杯開幕までに、西野朗監督が与えられたテストマッチだ。用いる戦術や起用する選手を見極める貴重な実戦の場で、初戦となる5月30日のガーナ戦でまず試したのが「3バック」だった。それに「使えない」という目途を付けられたと捉えれば、それなりの意義はあった。その意味でロシアに入る前のオーストリアの事前キャンプと、2試合のテストマッチでチームの型を固めていくのだろうと誰もが思っていたはずだ。

驚いたのは、6月9日のスイス戦後に伝わってきた「(12日のパラグアイ戦では)起用の少なかった選手を使いたい」という西野監督の発言だ。この言葉を聞いて、多くの人はこう思ったのではないだろうか。チームの核となる選手はそのままに、岡崎慎司や香川真司、乾貴士などを起用するのだろうと。

6月12日のパラグアイ戦のピッチに立った青いユニホームを見て「本当ですか」と目を疑った。パラグアイ戦までに全員を使うというのは本当だった。スイス戦とダブったのは酒井豪徳だけ。後の10人が西野監督の言葉通りに本当に入れ替わった。

戦い方の意思統一やシステムの構築がまだでき上げっていない段階での大幅なメンバー見直し。これを建築に例えると、最も大切な基礎工事ができあがっていないのに、設計図とはまるで違う家を建てようとしているようなものだ。時間が限られていることが分かっているにもかかわらず、このような選手起用をするのはなぜか。正直、理解ができない。西野監督はW杯の本大会でいったい何試合を戦うつもりなのだろうか。

西野監督としては、スイス戦がベストに近いメンバーだったはずだ。確かに対戦した2チームは同レベルとはいえなかった。W杯出場国で、ホームで戦ったスイス。かたやパラグアイは出場権を逃し、新チームを立ち上げえたばかり。チームの成熟度やモチベーションを踏まえても、両者には大きな差があった。それを差し引いたとしても、どちらが本大会で結果を残す可能性を感じさせるサッカーを演じたか。皮肉なことだが、それは控えメンバーで臨んだパラグアイ戦だった。

2試合を固定したメンバーで戦っても、本大会での結果は変わらないのかもしれない。それでも、ベストに近いメンバーで第1戦を戦い、問題点を第2戦で修正するという手法が、限られた2試合を最大限にいかす方法だったのではないかと思っている。

2試合をまったく別のメンバーで戦った西野流のやり方は、ある意味でオールスターのやり方だ。日本ではトップの選手がそろっているのだから、ある程度のレベルでの即興はできる。ただ、そのプレーが成熟しているとはとても言えない。

今回、パラグアイ戦が形になっていた要因を考えるは何か。こんなことが言えるのではないだろうか。接近するポジションのエリアに、二つのコンビネーションに優れるグループが存在したということだ。一つは昌子源と植田直通の2人のCBとボランチの柴崎岳が組む「J1鹿島・グループ」。もう一つはボランチの山口蛍とその前方中央にいる香川、そして左サイドの乾の「J1C大阪グループ」。より多くの時間を共有できるクラブチームで熟成されたコンビネーションは当然のことながら、代表チームで築かれたそれより質が高い。スイス戦ではそのようなホットラインが、残念ながら存在しなかった。

19日のピッチに誰が立っているのか、まったく予想がつかない。もしかして西野監督自身が混迷しているのではないだろうか。とはいえ、パラグアイ戦において、見事な連携を見せてともに得点を挙げた乾と香川のコンビは外せなくなっただろう。香川と同じトップ下候補には本田圭佑がいるが、スイス戦で一度もペナルティーエリアに入れなかったという事実を考えれば、立場は逆転したはずだ。

一番悩むのは、2ボランチの組み合わせだ。パラグアイ戦前日も別メニューとなった大島僚太を控えに回すと考えれば、長谷部誠、柴崎、山口のうちの1人が外れることになる。得点を考えれば、攻撃をコントロールできる柴崎は外せないことは明らかだろう。彼の持つ戦術眼と一発で相手の急所を突く縦パスの精度、さらにFKの正確性は攻め手のない日本の数少ない武器だ。

問題は柴崎をチョイスした場合、パートナーは守備のスペシャリストが不可欠になるということだ。必然的に組み合わせでは山口で決まる。そうなれば絶対的存在のキャプテン長谷部を控えに置くという選択になる。

8年前の南アフリカ大会に臨んだ岡田武史監督は絶対的存在だった中村俊輔をベンチに置く英断を下した。結果的にそれは決勝トーナメント進出につながった。あのときのような思い切った采配が西野監督にはできるのか。コロンビア戦に注目したい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会連続となる。